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12 堪らなく愛おしい

 周さんの作ってくれたカレーは懐かしい味がした──  久し振りの温かい食事。心が弾む幸せな時。今までは当たり前に僕のそばにいてくれた周さんが、ほんの一時遠くにいただけで、僕の心はえも言われぬ寂しさに覆われてしまった。 「周さん? 僕ね、自分が思ってる以上に寂しがりかも知れません」  食事を終え汚れた皿を洗いながら、僕はビールを飲んで寛いでいる周さんに声をかける。水が流れる音が邪魔をして聞き取れなかったのか、周さんは僕のそばまで来て「どうした?」と背後から抱きしめてくれた。  周さんは僕がこうしてほしいなって思うことを、いつも先回りして行動してくれる。こういうのも無意識にやってくれるのは「愛」なのだと幸せな気持ちになる。  周さんからの愛情はとてもわかりやすい。僕はいつもそんな周さんに甘えてばかりで、ちゃんともらった愛情を返せているのだろうか。僕はよく「素直だ」と言われるけど、そんなのただ我儘に気持ちを漏らしているだけかもしれない…… 「周さんとこんなに長い間会わなかったことなかったから、寂しすぎてどうにかなっちゃうかと思いました」 「可愛いこと言ってんね。それほど? まあ俺も竜太が恋しかったけどな」  可愛いことなんてない。これはただのわがまま。自分の我慢の無さが情けない。 「いつまでも子どもみたいなこと言っててすみません……」 「んー、どうした? さっきから浮かない顔してる。あ、竜太が買ってきた惣菜は明日の朝飯にでもしろな? もったいねえから」 「え? ふふ……はい、そうですね」  食べようと思っていたスーパーの惣菜のことなんてすっかり忘れていた。周さんはキッチンに置きっぱなしになっているそれらを見ながら、不思議そうな顔をして「竜太でもこういうの食うんだな」と呟いた。 「だって自分のためだけに料理するのって、面倒になったりするんですよ。疲れてるなら尚更」 「あぁ、確かに……俺でもそれはちょっとわかるな」  周さんは「俺も竜太の喜ぶ顔見たくて作った」と笑い、いつもありがとうと頭を撫でてくれる。その大きな手が僕に触れるたびに、あたたかな気持ちが湧き上がるのをちゃんとわかってくれている。 「なぁ? 竜太? 片付け終わりそ?」  周さんは僕にちゃんと聞こえるように顔を寄せて喋るから、首元に息が触れゾクっとする。後ろから抱きしめる手が、ゆっくりと僕の体を確かめるようにして撫でるから、すぐにその先の淫らな行為を期待してしまう。 「……洗い物、終わりました」  振り返り、僕を弄る周さんの手を掴む。何か言葉を発する前に周さんの顔がすっと近付き、ゆっくりと優しいキスをくれた。 「どうする? ベッド行く?」 「もう一回……キスしてほしい」 「……了解」  周さんは僕の頬を優しく掴むと、少しだけ強引に唇を重ねた──  堪らなく愛おしくて、離れたくなくて、ベッドまでの移動の時間すら惜しくなる。肩に腕を回し、抱きつきながらキスを続けていると、周さんの手が僕の尻に触れあっという間に抱き上げられた。 「相変わらず軽いな」 「んっ……待って」 「あ? 待てないし」  僕は周さんから落ちないように足も絡ませしがみつく。気付けば寝室まで連れて行かれ、ゆっくりとベッドに下ろされた。  

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