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15 居心地のいい場所

「そっか、周さんたち日本に帰ってたのか。よかったな、竜。会えなかった間、死にそうな顔してたもんな」 「うん。でもなんの連絡もなくていきなり家にいたからびっくりしちゃった」  康介と一緒にとあるバーで呑んでいる──  せっかく周さんが帰ってきたというのに、一晩過ごしただけでまた出て行ってしまったことが寂しすぎて、思わず僕の方から康介を夕飯に誘ってしまった。「竜の方から誘ってくるの珍しいな」と康介は喜んでくれた。近況報告だったり、お互いの愚痴を聞いたり聞いてもらったり……幼馴染の康介とは比較的頻繁に会ってはいるけど、やっぱり学生時代のようにはいかないから、急に呼び出しても嫌な顔をせずに会ってくれるのは本当にありがたいなって思う。  「あっちに行ってる間だってたまには連絡くれてもよかったと思うんだよね。まあ僕も時差とか気にして連絡しにくかったってのもあるけどさ……」 「でも嬉しかったんだろ?」 「そりゃそうだよ。周さん、僕の家でカレー作ってくれてた。サプライズってやつだよね」 「は? 周さんが? 料理? うける!」 「なんでだよ! おかしくないだろ」  康介の言う通り、周さんが料理をしてる姿なんて想像できないと思うけど、でもそんなレアな姿を見られるのは僕の特権だと思うとちょっと嬉しい。 「何? 竜太君、カレー食べてまたここでもカレーでよかったの?」 「あ、はい、悠さんのキーマカレー大好きですし、別物だから」  カウンターから申し訳なさそうな顔をして(ゆう)さんが僕らに声をかけてくれた。  このバーのマスターである悠さんとは高校の頃からの縁があり、ここ最近ではよくお店を利用させてもらっている。 「それならいいけど……ごめんね、食事メニュー少なくて」 「あ、いや別にそんなことないですっ。いつもありがとうございます」  悠さんは人当たりも良くて話し上手で、とても居心地がいいから一人でもよくお邪魔している。ここは僕らの隠れ家的存在のバーで、悠さんは頼りになる大先輩といったところだ。みんなも何かしらこの人には世話になっていると思う。  僕らが来るようになってから食事メニューを少し増やしたんだと以前言っていた気がする。元々はお酒に合うつまみ程度のメニューしかなかったのに、悠さんは何かあるとちょっとしたものを作ってくれて僕らに食べさせてくれたりした。でもその時はメニューにないものがほとんどだったと思う。とにかく悠さんの作ってくれる料理はどれも家庭的で美味しくて、不思議と心がホッとするから、ここに来れば必ず料理もしっかりと食べてしまうんだ。まあ僕はお酒が得意じゃないから、悠さんの食事が目当てなところもあるのだけれど── 「元々飯食うとこじゃねえんだから、悠さん謝ることねえって。お前ら来るようになってからメニュー増やしてやってんだぞ? ありがたく思え」  突然僕らの横から声をかけてきたのはこの店の常連の(あつし)さん。敦さんは修斗さんや志音と同じ事務所に所属しているモデルで、タレントとしても活動している有名人だ。でもテレビで見るイメージとプライベートとのイメージがちょっと違って見え、背も高くて威圧感もあるからか正直僕は少し苦手なタイプだった。

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