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16 もどかしさ
なぜか康介は敦さんの顔を見るなり不愉快そうに舌打ちをした。
「はぁ、別に文句言ってるわけじゃねえっすけど? 急に話しかけないでくれます? それに敦さんの店じゃねえでしょ。もちろん悠さんには感謝してますよ」
「ちょっと? 康介……酔ってるの?」
不機嫌丸出しにして敦さんに突っかかる康介に僕は慌てて間に入る。敦さんはそんな康介の態度にキョトンとしているけど、特に怒るわけでもなく、どちらかというと楽しそうに康介を見ていた。
志音繋がりで何度か会ったこともある敦さんだし、ここにいる悠さんに敦さんが「公開プロポーズ」をした極秘パーティーにも僕らは呼んでもらったこともある程度のお付き合い。ここ悠さんの店でこうやって会えば、多少は会話だってする。けれど僕らより全然歳上だし、それほど親しいというわけでもないから康介の失礼な態度にハラハラしてしまった。
「てかさ、康介君、修斗が忙しいからってイラつきすぎじゃない? 俺に当たってもしょうがねえじゃん」
「は? 別にイラついてませんけど?」
「やめなよ、康介」
いや、どう見ても敦さんの言う通り康介が苛々しているのは一目瞭然。敦さんはそれをわかっていてわざと康介に突っかかっているように見えた。
「おーこわ。男の嫉妬は見苦しいよ」
「おい! 嫉妬ってなんだよ!」
「こら! 敦は余計なこと言わないの! 康介君、こいつの言うことなんか気にすんなよ?」
今にも康介が立ち上がって敦さんに掴みかかりそうな雰囲気に、呆れたように悠さんが敦さんを嗜める。
「はいはーい。ごめんねぇ康介君。冗談だよ冗談。悠さん、カレーまだある? 俺も食いたい」
「……ったくもう、これ食って大人しくしてろ」
敦さんは悠さんに出してもらったカレーを頬張りながら、もう康介には興味が薄れたのか何事もなかったように悠さんと会話を始めた。悠さんが間に入ってくれたから敦さんは離れて行ったけど、康介はまだ興奮しているようで一人ぶつぶつ文句を言っている。
「康介? だめだよ、あれは感じ悪いと思う」
「しょうがねえじゃん、むかついちゃったんだもん。でも敦さんがさ、いっつも修斗さん誘って遊びに行っちゃうから帰り遅いし、何やってるかわかんねえ時もあるし……気が気じゃないんだよ。ほどほどにして欲しいわ」
康介は今まで以上に修斗さんが人気者になってしまい、自分から離れていってしまうんじゃないかと不安になるのだと酒を呷りながら愚痴り出す。一緒に住んでいるとはいえ勿論「同棲している」なんて言い方はせず、周りには「ルームメイト」「ルームシェアしている友人」と言っているから、きっと本当のことが言えないもどかしさもあるのだろう。修斗さんとは「恋人同士」だなんて絶対に言えないしバレてはいけないことだからと、寂しそうに康介は笑った。
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