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17 敦さんと康介

「康介の気持ちもすっごくわかるけどさ、もうこの話何度目? 康介が心配しなくても、どこからどう見たって修斗さんは康介のことが大好きなんだからさ、心配することなんかないって」 「竜まで適当なこと言ってさ。いいんだよ、はっきり言ってくれても……俺みたいにブスな一般人は修斗さんとは釣り合わないんだって」 「もう、また始まった……」  愚痴りモードの康介はお酒が進むといつもこんな風になってしまう。自分を卑下するのは勝手にどうぞ、だけど、僕にとっての康介はすごくいい奴だしもちろん容姿だってかっこいいと思ってるから、康介本人だろうとも僕の大切な友人を馬鹿にされているような気分になって面白くなかった。 「康介君大丈夫? やばくない?」  話半分、適当に康介の愚痴を流して聞いていたら、横から敦さんが心配そうに顔を出した。康介はそんな敦さんのことなど気が付かず、突っ伏したままで一人グタグタと何かを喋っている。お酒を呑んで陽気な康介も、こうやって愚痴りモードになって面倒臭くなっている康介もいつものことなので、とりあえずは心配ない。けど── 「誰のせいだと思ってるんです? 敦さんが意地悪言うから……」 「えー? それって俺のせい? まあでもさ、修斗は今一番頑張らなきゃいけない時期だと思うから応援してやってよ。忙しいのはありがたいことなんだって、康介君もわかってると思うけどさぁ」  康介の言う通り、ここ最近では修斗さんは敦さんの「弟分」みたいな位置付けでローカル番組にも出ていたりするから注目度も上がってきている。おまけに敦さんのSNSで「匂わせ」のように修斗さんを絡ませて発信しているのもあって、変な方向に噂が立ってしまっているのも知っている。まあファンが面白がって囃し立てているだけなんだけど、芸能の情報に疎い僕ですらこのくらいの認識なんだ。康介からしてみたら面白くないことこの上ないのだろう。 「それにしたって、敦さんまでそんなふうに言わないでください。康介、すごく心配性なんだから」 「えー? そんなんまで面倒みきれないって」  敦さんは「一緒に住んでるんだし堂々と彼氏ヅラしとけばいいのに」とくだを巻いている康介を見て笑う。 「まあでも確かに修斗は外面がいいからな。愛嬌もあるし頭いいから人に取り入るのが上手いんだよ。あいつの武器だよね。だからいろんな奴に好かれてるし、康介君が心配になるのもしょうがないっちゃあしょうがないのか」 「──はぁ? 外面がいいってなんだよ。修斗さんのこと馬鹿にすんじゃねえよ……修斗さんは……修斗さんは……外面……カッコいいん……だ……」 「へ? 馬鹿にしてないからね? 褒めてんのよ? え? 待って? 康介君? 起きてる? 寝てんの? 嘘でしょ?」  康介は突然敦さんの言葉に反応して文句を言ったかと思えば、またすぐにテーブルに突っ伏して眠ってしまった。 「酔い潰れてんのに地獄耳こわっ……てかほんと面白いね、康介君」 「もう! 面白くないです。いつものことだけどこうなると面倒臭いんだから」 「竜太君、康介君いつものことって言ってもそこでずっと寝られちゃうのは困るからね、適当なところで連れて行ってね」  呆れ顔で悠さんに言われてしまえばこれ以上長居はできない。僕は平謝りで会計を済ませ、なんとか康介を立たせて帰り支度を始めた。 「康介君にさ、もっと自信持てって言っといてよ。何にも心配することはねえよ。ちょっとからかってたのもごめんな。いや康介君面白いからさ、つい」 「はい。敦さんも康介が失礼な態度ですみませんでした」 「え、いいよいいよ、気にすんなって俺が悪いんだし。もうタクシー呼んだ? 二人とも気をつけて帰んなね」  敦さんだってハッキリとした物言いなだけで悪い人ではないと思うんだけど、やっぱり康介にとっては「天敵」みたいに感じるのかな。僕に支えられ、やっとのことで歩き出してる康介が「クソっ敦……男前め」とまだブツブツ言っているのを聞いてちょっと笑ってしまった。

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