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18 いつものこと

「なあ〜、ごめんなぁ。俺さ、ほんとにダメでさぁ……竜がそばにいてくれてよかったよ。いやほんと、俺ってばさ……」 「わかったから、うん。わかったから康介、ちゃんと歩いて! ね? 聞いてる? もう少しだから」  結局タクシーに乗り込んだものの、家が近いのもあり僕の家の前で康介と一緒にタクシーを降りる。愚痴りモードになった時からこうなることはわかってはいたけど、とりあえず部屋までは頑張って歩いてもらわないと僕だってちょっとしんどい。この状態の康介は、ひとしきり愚痴った後、僕に対する感謝の気持ちが溢れ出し、しまいにはグズグズに泣き始めるお決まりのパターンなんだ。そうなる前になんとしてもベロベロの康介を部屋に入れたかった。 「頑張って、康介。歩こ? 僕の部屋もうすぐだからね」 「うん、うん、ありがとう竜。俺、もっと頑張っていい男になるから……」 「大丈夫。康介はいい男だよ。はい、靴脱げる? 部屋着いたからね」 「竜〜、ありがとな〜。大好きだよ〜、あ! 修斗さんの次な。一番に大好きなのは修斗さんなんだよ〜、ごめんなぁ」 「ふふっ……そこはしっかりしてるんだね。うん、わかってるから大丈夫」  なんとか靴を脱がせてフラフラの康介をソファに投げる。その勢いのままソファに寝転がってしまった康介は案の定「俺なんて……」と言いながらメソメソと泣き始め、気がついたら眠ってしまっていた。 「あぁ疲れた」  そのままブランケットをかけてやり、僕はシャワーを浴びに行く。  明日は日曜日──  康介も休みだろうからこのままゆっくり寝かせてあげよう。 「昨夜のお詫びに朝食を買ってまいりました。お好きなものをどうぞ──」 「どうぞって……またすごい買ってきたね。あ、これ新作のデザート? 僕初めて見た。美味しそう」  康介は昨夜の記憶がしっかりあったらしく、朝っぱらからコンビニへ走ってくれたらしい。目が覚めたら康介の姿が見えないからてっきり帰ったのかと思ったけれど、すぐに息を切らした康介が戻ってきて意気揚々と購入したものをテーブルに広げ始めた。 「朝から買い物がてら少しジョギングも気持ちがいいな」 「二日酔いになってないの? 元気だね」  昨日のグズグズな康介はどこへやら、いつもと変わらない様子の康介は「何食べよっかな」と楽しそう。僕も遠慮なく好きな菓子パンと新作のデザートをキープしながら、康介に話しかけた。 「ねえ、のんびりしてるけどさ、修斗さん心配しない? 昨日から連絡してないんでしょ?」 「え? いいんだよ。子どもじゃねえんだからいちいち……そもそも修斗さんだって俺に連絡なしで平気で朝帰りとかするんだぜ? 昨日だって撮影泊まりになるかもって言ってたし。ほら、見てみ? 修斗さんから一回も連絡入ってねえのよ。そんなもんなんだよ修斗さんにとっての俺ってさ」  僕にスマートフォンの画面を見せながら、不貞腐れた子どもみたいに頬をプウッと膨らませる康介はとてもわかりやすい。「俺ばっかり修斗さんのこと好きみたいだ」と不満を漏らすのも定期だ。 「いや、連絡ないのは向こうは仕事だからじゃないの? そんな変に意地張るようなことかな……」 「別に意地なんか張ってないから。心配ならあの人の方から連絡するでしょ。あ、汗かいたからシャワー浴びんね」 「うん……」  母ちゃんかよ、うるさいなぁ、とブツブツ言いながら康介は風呂場へ行ってしまった。  まあ、なんにせよ、修斗さんと一緒に住んでるのだから嫌でも顔を合わせるだろうし、忙しい修斗さんとのすれ違いもよくあることなのだろうと思うようにして、僕はとっておきのビスキュイショコラをパクリと口に放った。

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