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 当初の予定のラーメン屋にはまた改めて行くことにして、今日は僕がよく行く居酒屋に向かう。あそこなら二人でも利用できる半個室もあるし、程良く騒がしいから聞かれたくないような話でもし易いだろう。 「ここでいい?」 「はい。なんだか渡瀬先生にしては意外なチョイスのお店ですね」 「どういう意味だよ」 「おじさんくさ……あ、いや、渋い感じのお店だなって」 「…………」  顔見知りの店員が空いている個室に案内してくれた。少しニヤついて僕のことを見ていたから「同僚ですよ」と自分から伝えると、つまらなさそうにオーダーを取りさっさと行ってしまった。 「とりあえず、お疲れ様」 「お疲れ様でした。今日もありがとうございます」  ビールを頼んだ梅北先生とは対照的に僕はノンアルコールのカクテル。形だけの乾杯をして喉を潤し、なんとなく口がラーメンの気分になっていたのを少し残念に思いながら、数品の料理を頼み彼女とシェアした。  話したいことがあると言っていたにもかかわらず、梅北先生はなかなか話を切り出さない。料理が美味しいだの、飾らなくていい雰囲気の店で居心地が良いだの、楽しそうに喋ってはスマートフォンのカメラで料理の写真を撮っている。僕が気をつかって聞かないでいたらこのまま話をせずに終わってしまいそうなくらいいつも通りだった。  あの深刻な顔はいったいなんだったのだろう。先程からこんな感じなら大したことじゃないのだとふんで、僕は意を決して聞いてみた。 「で? 話って何かな?」 「あ……ですよね。えっと、ちょっと待ってください……」  気まずそうに彼女はスマートフォンに目線を落とすと、僕のSNSのページを開きこちらに向けた。 「これ! 渡瀬先生もお料理されるんですね。すごく美味しそう」 「へ? あ、ああ……たまには、ね。あ、梅北先生いいねしてくれたんだ。ありがとう」  僕はもっぱら人の投稿を眺めているばかりだけど、たまに自分が作った料理やスイーツなんかをアップしていた。これは誰に見せるでもなく、備忘録的な感じに使っているだけ。新しく挑戦したメニューとかちょっと工夫したメニューを作ったときに載せているだけなんだけど、見てくれた人が褒めてくれるとやっぱり嬉しいなって思うのは正直なところだった。 「ねえ、まさか話って」 「あ! 違うの。それもそうなんだけど、いや、渡瀬先生のお料理がすごいなって、まずそれを言いたかったのとですね……これ! これってどういうことです?」  急に声を小さくし、僕の投稿に付いた「イイね」の一覧を開き、手に持ったスマートフォンを僕の顔の前までグイッと向ける。そこに並んでいたのは康介や修斗さん、志音と圭さん、陽介さん、と、僕の馴染みの友人たちのアカウントだ。大体僕と繋がっているのはこのメンツ。志音に至ってはSNSはやらないと公言しているから、ここにあるのはマネージャーが管理している仕事のお知らせアカウントではなく、完全にプライベートの、俗に言う志音の裏アカウントだった。これは言わなければわからないだろうけど…… 「渡瀬先生のフォロワーの一覧見たら、修斗とか……あとこのKeiって人はkany-dropsのボーカルですよね? よく見たらアマネもいるし望君もヤスシも、ほら、バンドメンバーの個人アカウント全てにフォローされてるし……謎!!」 「ああ、そうだね」  周さんもSNSは面倒だからと言っていたけど、みんなに言われ渋々アカウントを作っていた。投稿はバンドのアカウントからのお知らせのリツイートばかり。でも気まぐれに僕の投稿にいいねをつけてくれている。   梅北先生は声を殺して喋ってるけど興奮しきりで僕に問い詰める。僕はそもそも友達が多いわけじゃないし、鍵アカウントにしているから知らない人とはほとんど繋がっていない。近すぎてすっかり失念していたけど、よく考えたら彼女の言う通り僕の周りの友人たちは顔の知れた人が多かった。

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