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24 ちょっと困っていること

 ひとしきり喋ったあと、梅北先生は残っていたビールを一気に流し込む。そしてごくりと喉を鳴らし「はぁー」と長く息を吐いた。 「いやぁ……めっちゃ興奮しちゃいました。もうびっくりですよ私」 「僕もびっくりだよ。大変な話かと思ってドキドキしてたのに。でも教師辞める、とか深刻な相談じゃなくてよかったです」 「え? やだ、私辞めませんよ?」 「そうだね、悩みなんてなさそうだもんね」 「なんでですか! 悩みの一つくらいありますよ私にも! まあ今のところは無いけどぉ」  心配して損した。けど、大したことなくて本当によかった。「そろそろ帰りますか」と、聞きたいことが聞けてスッキリしたのかいそいそとスマートフォンをカバンにしまう梅北先生に続き、僕も残りのドリンクを飲み干し会計に進む。並んで通路を歩きながら梅北先生が「あ、そういえば……」と呟いた。 「悩みってほどじゃないんですけど、ちょっと困ってることがあるんですよねぇ、私」 「ふうん? そうなの?」 「困ってるって言っても、まあ大したことないんですけど……」  それこそ本当にどうでもいい感じで軽く話し始めるから、僕も適当に相槌を打ちその後に続く言葉を待つ。ちょうど店を出たところでポケットの中のスマホがブルっと震え、歩きながらメッセージを確認した。 「元彼が、最近付きまとってくるんですよね。ストーカーかっつうの」  僕は周さんからのメッセージを読みながら、適当に聞いていた梅北先生の言葉を反芻する。「竜太、今どこ?」と聞いてくる周さんに返信をしないと……と思うのだけど、それより彼女の言ったことが気になってしまい顔を上げた。 「元彼? え? 付きまとってくる? ストーカー? え? なんて?」  今度は僕の方が片言の日本語に。 「そう、コソコソとついてくるんですよ。私が気がついてないとでも思ってんのかな。ほんと気持ち悪いですよねー」 「梅北先生から声かけないの?」 「なんで私から? とっくの昔に終わってるし、二度と関わりたくないんで無視です無視」  いやいやいや……それって凄く危ないのでは? それこそ深刻な話なんじゃないのかと心配になる。さっきまでの話より全然大変な話だと僕が言っても梅北先生は「別に黙ってついてくるだけだから無害ですよ」なんて言って笑うだけだった。いや、これからどう豹変するかわからないんじゃないのかと僕は不安しかない。黙ってあとをつけるなんて無害なわけがないと思うのだけど。他人事ながら胸がざわつき落ち着かなかった。 「付き合ったの結構前の話だし、付き合ってすぐ、あ、こいつモラハラ気質だ、って気がついたから、痛い目見る前に切ったんですよ。私結構フットワーク軽いんで」 「いや、フットワークとかそういうんじゃなくてさ、尚更危ないよ。笑い事じゃ無いと思う……」 「ほんと、モラハラな上に粘着質ってやばいですよね。キモいです」  梅北先生は僕の言ってることをちゃんと聞かない。あとをつけられていたのは何度目か聞いたら、回数ははっきり覚えてないけど何回もあると言って笑っている。いやいや、ダメでしょ……怖くないのかな。僕は思わず梅北先生の背後を振り返る。僕らと同じに駅に向かう人混みに不審人物が潜んでいないかなんて見たところでわかるはずもなく、呑気に笑っている彼女への心配が増すばかりだった。

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