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26 そこに現れたのは……
「おい──」
唐突に背後から肩を叩かれ、驚きで体が強張る。僕の横にいた梅北先生も小さく「きゃっ」と声を上げた。恐る恐る振り返ると、そこには無表情の周さんが立っていた。
「あ……あれ? 周さん?」
てっきり梅北先生のストーカーかと思って緊張したけど、そこにいたのが周さんだとわかり一気に気が抜け安心した。
「いつものとこかと思って来たらやっぱりいた」
「あ、そうなんです。あの店で少し呑んでて……」
「ふうん、そう……」
周さんは帽子を目深にかぶり薄く色の付いたサングラスをしている。それでも背の高さもあるし、ついさっきまでの梅北先生との会話もあり、どこからどう見ても周さんだとわかるだろう。案の定、僕の横に立っていた彼女は少し興奮気味に僕の服の裾を引っ張り「本物?」と小さく呟く。
「で? 誰?」
周さんは無表情のまま、僕の横にいる梅北先生に向かって顎を突き出す。愛想がいいでもなく、ぶっきらぼうで少々感じが悪い態度なのはいつものことだし、そういうキャラなのだと梅北先生もわかっていると思うから、僕は気にせず「同僚の梅北さんです」と紹介した。
「あ、あ、いつもお世話になってま……」
「竜太、もう帰るんだろ?」
緊張しながらも自己紹介をしようとした梅北先生を遮るように周さんはそう言うと、僕の肩に手を置き「帰ろうぜ」と歩き出す。いや流石に「誰?」と自分から聞いていたのだから、そこはちゃんと聞くべきでは? ちょっとそれは失礼すぎだな、と思いながら僕は周さんを引きとめた。それに、彼女をとりあえず駅のタクシー乗り場まで送りたい。
「あの、周さん、待ってください。僕、梅北先生と駅のタクシー乗り場まで一緒に行きたいんですよ」
「は? なんでよ。竜太んち駅と逆方面だろ?」
「あっ! 渡瀬先生、いいんですよ。私もう行きますし、一人で帰れますって」
「ほら、そう言ってんだし……」
「いや、ダメです。駅まで行きます」
大丈夫だからと慌てる梅北先生と、どうしても駅まで送りたい僕。そしてどんどん不機嫌な顔になっていく周さん。ストーカー被害のことは僕からは言いにくいから、周さんにどう説明しようかと迷っていたら、梅北先生が口を開いた。
「渡瀬先生、私が元彼に付きまとわれてるって知って、心配してくれてるんです。大したことないから大丈夫だって言ってるのに……」
「…………」
周さんは黙って聞いている。
「渡瀬先生は心配しすぎなんです。私はここでいいので、ね? 今日はありがとうございました。それでは失礼します」
いそいそと帰ろうとする梅北先生の腕を咄嗟に掴んだのは僕ではなく周さんだった。
「なんだよそれ、ダメだろ。それってストーカーじゃねえの? 危ねえじゃん。お前、竜太の言う通りタクシー乗って帰れ」
周さんに腕を掴まれた梅北先生は、「はわわわ……」と変な声を出しながら真っ赤になっている。「何かあってからじゃ遅えんだから」と、周さんも僕と同じことを言いながら一緒に駅までついてきてくれた。
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