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28 「好き」の気持ち

 少なめに作った親子丼はあっという間に周さんのお腹の中に消えていった。ご飯粒一つ残っていない綺麗になった丼を見て、僕は少しだけホッとする。 「周さん、明日は──」 「ん、ゆっくりできる」  洗い物をする僕の後ろにピッタリとくっついてくる周さんは今日は甘えたい気分なのか、さながらくっつき虫のようだった。なんとなくいつもと違って見えたのはきっと気のせいなんかじゃない。でも周さんがなにも言わないのなら、僕からはなにも聞かず、詮索もせず、したいようにさせてあげよう。 「お風呂どうします? 先に……」 「一緒に入る」 「はい」  僕の部屋の浴槽は決して広くはない。でも昔からよく二人で狭い浴槽に体をくっつけて入っていた。不思議と周さんと一緒にお風呂に入っていると素直になれる。これはきっと周さんも同じだろう。なんでもない入浴時間だけど、今までのたくさんの思い出が僕の中にはあふれていた。 「ん、竜太こっち。って、相変わらず狭えな」 「周さんちのお風呂よりはずっと広い……はずですよ」 「だな」  僕は周さんに背後から抱えられるようにして湯船に入る。とくにいやらしい気分になることもなく、リラックスした気持ちで僕は周さんに身を任せた。後ろから抱きしめてくれる周さんの腕に手を添えゆっくりと撫でると、その手に重ねるようにして周さんも僕の手をゆっくりと摩ってくれる。なんとも言えない心地よさに目を瞑ると、頸にチュッとキスをされた。 「なあ……竜太は明日も仕事だよな?」 「はい、学校ありますから」 「…………」  平日なんだし、僕が仕事があるなんて聞かなくてもわかること。でも、モゾモゾと僕の手を撫で回す周さんの言いたいことがなんとなくわかってしまってソワソワしてしまった。 「なんでそんなこと聞くんですか?」 「あー、別に……」  言いたいことを言わずに言葉を濁そうとする周さんに、僕は振り返りもう一度聞く。わかっているのにあえて聞き返すのは意地悪かな? と思いながら。 「ねえ、なんで?」 「……えっちしたい」  申し訳なさそうな顔をして周さんは小さな声でそう言った。きっと次の日も朝から仕事のある僕の体を気遣ってくれてのこと。でも以前の周さんなら僕を気遣いつつも、こういうことははっきりと言っていただろう。 「いい?」 「ふふ、もちろんいいですよ。まだそんなに遅い時間でもないですし……僕もあの、抱いてほしいです……」  照れ隠しに周さんの手の甲にキスをする。改めて言うのはやっぱりちょっと恥ずかしかった。 「準備するから、先に上がっててください」  何年経ってもドキドキする──  僕の「初めて」は何もかも周さんが最初。  周さんとの時間が長くなれば長くなるほど「好き」の気持ちは大きくなり大切になった。付き合ってから何年経とうと変わらない。  いつもと同じ。何度も何度も同じに重ねてきた周さんとの甘い時間。同じはずなのに毎回違う、ドキドキするこの気持ちはなんなのだろう。    愛おしい気持ちが止まらない。

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