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29 追憶に耽る/周の思い

 ずいぶん変わってしまったな、と思うことがたまにある。  竜太も俺も──  それは決して悪い方にではなくて、時と共にそうなるのは至極当然のことなんだとわかっているのに、きっと俺の方が大人になりきれなくてモヤモヤとしてしまうんだろう。  相変わらず付き合いのある修斗や康介。お互い忙しくしていても何だかんだで定期的に連絡は取り合う仲だ。とりわけ修斗は、これといって用事もないのにくだらないことで連絡を入れてくることが多々あった。 「なあなあ、竜太君元気してる?」 「は? んなの俺よりお前の方が会ってんじゃねえか」  俺が日本を出て半月ほど経った頃の修斗からのメッセージ。 「まあそうだけどさ。竜太君、周に会えないって寂しがってたよ」 「そんなこと今更かよ。わかってるっつーの」  縁あって俺は好きなことでなんとか飯を食っていけるようになっていた。当たり前に竜太は応援してくれてるし、勿論小さな事務所とはいえ周りからもよくしてもらっているのもわかっている。初めての海外、おまけにずっと憧れていた泰牙とも関わることができた。凄い刺激をもらえ、ありえないくらい興奮した。こんな経験、簡単に出来ることじゃない。    俺たちがここまでくるのにいろいろなことがあった。  圭さんが日本を離れ、修斗も抜けて、 靖史さんとそして新しいメンバーの望を迎えてなんとか続けてきた。圭さんが戻ってからはバンド名も一新し、新体制で新たにスタートさせた。ファンのため、俺たちの音楽を聞いてくれる人らのため、その力になれるような曲を作りたい……なんて、俺にはそんな大層な志なんかあったりなかったりだけど、曲を作りながら自問自答しつつ結局は「好きだから」続けているんだ、という単純な理由に辿り着く。好きなことを続けていけることは恵まれていることだと思う。でも俺は器用じゃないから、あれもこれもいっぺんにうまくやることができないんだ。  離れている間だっていくらでも竜太に連絡することもできたはず。竜太が寂しがってるなんて言われなくてもわかってるし、俺だって同じ気持ちだ。でもお互い子どもじゃないんだし、竜太にだって竜太の日常がちゃんとある。俺が連絡をしないのも竜太はわかっている。向こうからの連絡がないのがその証拠だ。お互いいい大人でそれぞれの生活があるのだから、寂しいとかそんな感情だけで相手を煩わせることなんてしたくない。  思ったことをなんでも言い合う。いちいち伝え合って安心する。そんな学生時代のような付き合い方はもうしない。自然とそういう付き合い方になっていった。お互い信用しているし、不安になることなんてない── 「周、いつ頃こっち戻るの?」 「よくわかんね。まだしばらくかかるだろ」 「じゃ、戻ったらまた呑み行こうな」  適当な社交辞令で会話をしめる修斗とのやりとりを終え、俺は竜太のことを考える。確かに付き合い始めてから今まで、こんなに長い間顔を合わせなかったことはなかっただろう。寂しいなと思うのは当たり前だ。今頃竜太はどうしてるかな、なんて、久々に音楽から頭を切り替え、遠く離れた愛しい人に思いを馳せた。  

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