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30 俺の恋人

 俺の可愛い恋人、竜太は一つ年下の小学校教師だ。付き合い始めてまもなく十年ほどになる。  初々しさや新鮮さは少なくなったものの、お互いに大事だと思う気持ちはずっと変わらず。これから先もそれは同じ。  そうであるはず──    帰国してすぐ俺は竜太に会いに行った。同棲しているわけじゃないけど互いの合鍵は持っていて、家には自由に行き来している。まあ俺が竜太の家に転がり込んでることがほとんどだけど。  整理された綺麗な部屋。そこに紛れて所々に当たり前に鎮座している俺の私物。以前は一緒に住みたいと思っていたけど、生活リズムの違いと、竜太に負担をかけたくないという理由でその思いは飲み込んだ。  竜太が帰宅するまでの間に俺は冷蔵庫の中身を確認し買い物に出る。普段通りならあと二時間もすれば竜太は帰ってくるだろう。歩いて十分ほどの近所のスーパーに向かい、昔ながらの商店街を抜けて歩く。買い物袋をぶら下げて歩く母親や、子連れのサラリーマン、塾に行くであろう子どもらが多く行き来する夕暮れ時、ふとどこからともなく漂ってくるカレーの匂いが俺の鼻をくすぐった。  しばらく会っていなかったせいか、帰ってきた竜太は俺の顔を見てどんな顔をするだろう? 晩飯はどうするんだろう? と、色んな事が気になってしまい、気がついたら俺は唯一作れるカレーの材料を購入していた。 「まあなんとかなるだろ」    初めて竜太のために料理をしたことを思い出す。結果失敗作でしかなかったけど、竜太はとびきりの笑顔で喜んでくれた。「その気持ちが嬉しい」のだと。さすがに一人暮らしも長くなり、ちょっとは料理の腕も上がったと思う。大したことはやらないけど、簡単なものくらい俺にだってできる。久しぶりに会う恋人の笑顔を見たくて、俺はウキウキしながらカレーを作った。  会えなくてもこうやって相手のことを思いながら過ごす時間も不思議と俺の中では貴重なことで、仕事モードだった頭の中を切り替え、素の自分に戻れる有意義な時間。与え、与えられ、積み重ねてきた二人の時間があるからこそ、一人でいても互いを感じる事ができるのだと思う。 「周さんとこんなに長い間会わなかったことなかったから、寂しすぎてどうにかなっちゃうかと思いました」  俺の突然の訪問に、竜太は目に涙まで浮かべて可愛いことを言ってくれた。帰宅早々、確かめ合うようにキスをして、抱きしめ合って体温を感じる。そのままスイッチが入ってしまった竜太に押されそうになったけど、このまま抱いてしまったら俺は止められる自信が無いから、一先ず作りたてのカレーを食べさせた。

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