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32 自己嫌悪

「どこにいるんだ? 迎えにいく」  俺がそう言えば、竜太はなぜか気まずそうに「大丈夫」と言う。竜太の背後に誰かいるようで、俺と通話中だというのにそいつと何か話しているようにも感じイライラしていたら「僕もすぐに帰りますから」とあっけなく通話を切られてしまった。 「は?」  思わず声が漏れる。こんなことくらいでイライラすることなんてない。わかっているのにどうしても気になってしまい、俺の足は竜太のマンションとは逆の方に向かっていた。家から近いところで呑んでいると言ったらきっとあの店だろう。なんとなく竜太がいそうな場所を思い浮かべながら、俺は駅のほうへ引き返した。  繁華街へ近付くにつれ人も多くなっていく。竜太に会えなかったら大人しくマンションの方へ向かおうかと少し遠くへ目をやると、見慣れた頭がチラリと見えた。 「あ……いた」  竜太の姿を見つけることができて嬉しいはずなのに、俺の心はザワザワと嫌な音を立てている。人の流れの中で立ち止まる竜太と、その横には見知らぬ女……しかも竜太に寄り添い腕まで組んで笑っている女の姿から俺は目を逸らすことができなかった。  どう見てもどこにでもいるようなカップル。でもあの二人がそんな関係ではないことを俺はちゃんと知っている。それに遠目で見ても竜太が迷惑そうな顔をしてその女に何か言っているのがわかるのに、俺はじわりと湧いてくるなんとも言えない感情に苦しくなる。嫉妬心とか竜太に対する怒りとか、断じてそんなことじゃない。こんなことくらいでモヤモヤしている情けない俺自身への自己嫌悪だ。いつになったら俺は器の大きな男になれるのだろう。俺は小さく溜息を吐き、二人の方へ近づいた。 「おい」 「あ……あれ? 周さん?」  驚いた顔で振り返った竜太にくっつくようにして立っている小柄な女。同じような顔をして、二人して目を丸くして俺の顔を見上げている。距離が近いとか、竜太より小さくて側から見たらお似合いのカップルに見えるとか、よく見たらちんちくりんだな、とか、いろんな感情が湧きながら、誰? と問えば、竜太は同僚の梅北さんだと教えてくれた。名前を聞いたところで俺にとってはどうでもいいこと。早く竜太と二人になりたかったから、そのまま俺は竜太を捕まえマンションへと足をすすめた。  電話の時から竜太の様子に違和感があったのはきっと気のせい。そうであってほしかったのに、竜太は「待ってください」と俺を引き止めた。  なんでただの同僚をわざわざ駅まで送りたい? ましてや俺がここにいるというのに……なんて、もやもやしていたら、この女が元彼に付き纏われてるのを竜太が心配しているんだとわかって納得した。てかこの女、危機感無いのか? 竜太もよく変なのに目をつけられてたから心配になるのもしょうがない。  駅まで送った後、俺は竜太にも変なのに巻き込まれないように釘を刺した。  部屋についてからも竜太はいたっていつも通りだ。「久しぶりだから会えて嬉しい」と変わらない笑顔で俺を見る。別に女と一緒だったからって、二人きりだったからって、竜太にとってはなんでもないこと。だから何も後ろめたいこともないからこうやっていつも通りの態度なんだ。俺だってそんなのわかっている。それなのにやっぱり俺はガキみたいにブスくれてしまって、また竜太に気を遣わせているのを感じ嫌になった。

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