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33 起こりえない未来の話

 竜太の作った親子丼を平らげる。  腹なんてすいてなかったのに、勧められるまま食べてしまった。竜太は「ちょっと小腹がすいてるから」なんて、さも自分が食べたいかのように言ったけど、きっと俺のことを気にして作ってくれたのだろう。    そうなんだ──  竜太は優しい。俺のことを大事に思ってくれている。もちろん俺も竜太に対して同じ気持ちだけど、いつも与えてもらってばかりに感じる。俺の方が竜太がいないとどうにかなってしまいそう。今日は特に色々と考えてしまって妙な気分だった。修斗に言わせると、俺は「自信家」で「俺様」らしい。そんなのいつの話だよ、と、過去の自分を思い返す。  竜太からの愛情はちゃんと届いてるし、俺からのそれも竜太はわかってくれている。わかっているのに不安になってしまうのはどうしてだろうな。  俺は初めて竜太の父親と対峙した時のことを思い出していた。「息子が増えたみたいで、いいね」と拍子抜けするくらい気安い雰囲気の明るい父親だった。物心ついた時からお袋と二人きりで、父親の記憶もないような俺でもわかる、家族に愛され大切に育てられてきた竜太。親にはカミングアウトはしないと言う竜太を尊重し、俺は恋人として付き合っていることは言わなかった。でも竜太のことは「友達」として、好きだからこれからもずっと一緒にいるのだと俺は伝えた。親からこれからも仲良くしてやってくれなんて言われたら、そりゃそう言うだろう。いや、言われなくてもそう伝えるつもりだったんだ。だってこれからもずっと長い付き合いになるのだから……  俺は竜太の父から「ありがとう」と「ごめん」を両方言われてしまった。竜太は人付き合いが未熟だから、俺に依存しすぎているように思うのだと竜太の父は悲しそうに俺に言った。親として子が傷つくのは辛い。でも真っ当に生きてほしいから、竜太の接し方が「友達」ではなく、間違った風に感じたら突き放してあげてくれと。  俺はどこかで自分たちのことを認めてもらいたいと思っていたのかもしれない。それを言われた時、正直言って怒りの気持ちが湧いていた。悪気があって言ったんじゃないのはわかってる。でも俺たちの交際を告白する前から否定されたようで悔しかったんだ。  高校生の時以降、竜太の父親とは会っていない。元々仕事に忙しく滅多に家にいない人だから、自然と距離があいてしまった。でも竜太や俺の近況はきっと竜太の母ちゃんから伝わっているのだろう。 「周さん、明日は──」 「ん、ゆっくりできる」  洗い物をしている竜太の背後にまわり、その華奢な体を抱え込む。俺がいつもこうやってまとわりついても、嫌な顔もせずに好きなようにさせてくれる竜太に今日も甘えてしまう。今日は週のど真ん中だから竜太は明日も通常通りに仕事がある。俺と違って朝も早いし子ども相手の激務だ。いつもなんともない風に振る舞っているけど、竜太なりに気を張り疲労だって溜まっているだろう。それなのに俺を気遣い労ってくれようとしているのがいつも以上に身に染みた。  竜太と一緒に風呂に入る。これは付き合い始めた当初からよくやっていることだ。不思議とリラックスできて素直になれる空間。きっとこれは竜太も感じていることだ。明日も仕事で疲れているのに申し訳ないなと思いつつ、馬鹿な頭で色々と考えすぎてしまったからか、普段以上に愛おしく、離れたくないと思ってしまった。  男のわりに細くて白い頸。華奢な腕、腰。俺が触れるとじわりと熱を帯びていく艶かしい体。それでも俺と同じ「男」の体だ。竜太は俺しか知らないからなんの疑問もなくこうやって一緒に過ごしているけど、もし俺と出会わなかったらきっと女に恋をして、両親からも当たり前に認められ、幸せな家庭を持っていただろう。    以前の俺なら、こんな起こりもしない未来を想像してあれこれ考えるなんてしなかった。  過去にこういう「もしも」の話で悩んでいた康介や修斗を不思議に思っていた俺なのに、おかしな話だ──

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