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35 「大好き」の痕

「え? ちょっ……周さん? んっ、んん……うっ、や……イっちゃう……待って」  ぎゅっと力強く抱きすくめられたまま、周さんの律動が早くなる。ほとんど身動きが取れない僕は、押し寄せてくる快感と苦しさに少しだけ怖くなった。今までだって強引に突かれたり多少乱暴に抱かれたりすることもあった。でも今日の周さんはいつも以上に奥へ奥へと僕を抉るから、気持ちが良すぎて勝手に涙が溢れてしまった。 「いいぞ、イけよ……俺も……」 「あっ」  最奥へ周さんの滾りが押し挿れられ、「イけよ」という艶めいた声に、あっけなく僕は果てた。ゾクゾクと腹の底から湧き上がってくるような快感が全身へと伝わっていく。心地の良い圧迫感に押しつぶされそうになりながら、僕を抱きしめ息も荒く動かなくなってしまった周さんの背に回していた腕をそっと退かし脱力した。   「はぁ……周さん、気持ちよかったです」 「…………」  周さんの汗ばんだ背中をポンポンと軽く叩き、僕を抱きすくめたままの周さんの頬に唇を寄せる。顔を上げてくれないから全く表情がわからない。火照ったその頬に数回キスを落とすと「なんかごめんな」と、そのままずるりと僕の中から腰を引いた。   周さんは僕に顔を見られたくないのか、体を起こし背を向けたままパチンとコンドームを外すとティッシュに包んで器用にゴミ箱へ放る。そんな様子がおざなりに感じ、僕は少しだけ寂しくなった。  何も言わない周さんの腰にそっと手を伸ばす。「ねえ」と声をかけても、やっぱり聞こえないふりをされてしまいもどかしかった。 「周さん? 僕の方、見てください」  はっきりそう声を張ったら、やっと周さんはわかりやすくしょんぼりとした表情を僕に向ける。 「今日はどうしちゃったんですか?」 「……ごめん」 「いや、そうじゃなくてね、何かありました? 今日の周さん、元気ない」 「うぅ……別に」  僕は不快に思ってないし、ましてや怒っているわけでもない。それなのに周さんときたらさっきからずっと謝ってばかりだ。周さんから何も言わないなら、僕からは詮索はしないでおこうと思っていたけど、やっぱりそうも言ってられないな、と、僕は強引に周さんをベッドに引き込む。「えいっ」と抱きつき無理やり腕枕をさせると「なにすんだよ」と言いながらも優しく僕の頭を抱いてくれた。 「エッチしたあとは、ちょっとイチャイチャしたいんです。いつもそうしてくれるでしょ?」 「あ、うん、そうだな」 「あんまりキスしてくれないから、今日は僕がいっぱいしちゃいます。ね? 周さん、好き。大好きです。周さんは僕のものだって、痕だって本当は付けちゃいたいけど……今日はこれで我慢です」 「…………」  キスマークだって周さんのことを考えたら躊躇ってしまうけど、見えないところなら、と僕は左胸の辺りにチュッと吸い付く。くすぐったかったのか、周さんはふふっと小さく笑うと僕の上にのしかかってきた。 「ありがとな」 「へ? 何がです?」 「ううん、なんでもない。あっ……ちゃんとキスマついてやがる。痕付けるの下手くそだったのに」 「それ何年前の話ですか? あ、ちょっと、やっ、僕はいいんです。待って、そこじゃ目立つからだめ。あ……あんっ、くすぐったい」 「うるさい……」 「んんっ」  周さんは僕の首筋に痕をつけると、噛み付くようにキスをする。ヌルリと僕の口内を這う熱を帯びた舌に再び快感が込み上げる。緩りと刺激を与えてくる周さんの指先に抗えるはずもなく、僕はまた呆気なく情けない声をあげてしまった。

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