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36 信用

 今度は普段通りにずっとずっと、焦ったいほどに優しく抱いてくれた。  お互い再び果てた後も、抱きしめあったままこれでもかというくらいキスをする。「好き」「愛してる」そんなありきたりな言葉だけど、自分のために紡がれたそれらの言葉はやっぱり特別で心地良かった── 「今日一緒にいた女さ……」 「ん? 梅北先生?」  僕の首元に顔を埋めたまま、ボソボソと周さんが話し始める。ふわりとした髪の毛に顔を擽られながら、顔を上げてくれない周さんの頭に視線を落とした。 「そいつ、竜太のこと狙ってんだろ?」  言いながらまた僕の首筋に唇を当てチュッと吸い付いてきたから、慌てて逃れ周さんを跳ね除けた。 「待って! これ以上痕つけちゃだめですって! せめて見えないところにしてください」 「ん……やだ。ここにつけたい」 「ダメです。さっきつけたでしょ? 僕、明日も学校あるんですけど」  たまにはいいだろ、と強引な周さんに文句を言っていると、何か言いたそうな顔をして僕を見る。不貞腐れて口を尖らせているのが可愛いけど、キスマークをこれ以上増やされてはたまらない。それに梅北先生のことだって気になる。 「だって修斗が……」 「え? 修斗さん?」 「んっ、なんでもねえ」  言いかけてフイッと顔を逸らしてしまった周さんに、僕は後ろから覆いかぶさり周さんを揺さぶった。 「なんでもなくないでしょ。言ってください」 「いや、なんでもない」 「…………」  なんとなく察しはつく。大方修斗さんに何か言われたのだろう。きっと修斗さんはからかい半分で適当なことを言っただけ。でもなんで梅北先生のことを? と、やっぱり疑問に思い周さんの言葉を待った。 「……女ってさ、狙った相手には何かってぇと相談だとか口実つけて誘ってくるって、あざといやつが多いから優しい竜太は漬け込まれちゃうんだろうなぁって……修斗が」 「うーん、わからなくもないけど、梅北先生はそんなんじゃないですよ? 僕もちゃんとわかってますから」 「ああ、俺も竜太は大丈夫だってわかってんだけどな、でも実際さっき女と並んで立ってんの見て、違和感なかったっていうか……竜太も女と付き合っていずれは、っていう未来もあったのかな、って」 「は? 突然何言ってるんですか?」  修斗さんは僕のSNSで最近繋がった梅北先生の鍵付き非公開のアカウントに気が付き、それを周さんに教えたらしい。内容は見られないけどアイコンとニックネームから女だとわかる。僕が自分から交流を広げることはないから、きっと身近にいる積極的な女だね、みたいに言われたらしく、もやもやしてしまったと言われてしまった。そんな周さんらしくない言い方に僕の方がモヤモヤする。そんなことを言ったら周さんの方こそ周りに女の人が多く、人付き合いだって幅広い。それでも僕が安心していられるのは、周さんは周さんらしくちゃんと線引きができているから。僕のことを思ってくれているって信じているから。 「僕ってそんなに信用ないです?」  修斗さんの目ざとさ、観察眼に感心しつつ、修斗さんの他愛ない言葉に周さんがこんなことを言い出すなんて珍しいな、と何かスッキリしない気持ちで僕は周さんの顔を見た。

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