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38 トレーニングジム

 待ち合わせの場所に少し遅れてやってきたのは康介。  僕からの急な誘いに文句も言わず、おまけに何かを察してくれたのか顔を合わせるなり「どうかしたのか?」と心配そうな表情を見せた。 「ねえ、前に言ってたジムって、今からでも大丈夫?」 「へ? 別にいいけど……急だな。てっきり竜は興味なくてスルーするかと思ってた」  康介からジムに誘われた時は話に乗せられて少しはやる気になっていたけど、正直言って時間の経過とともにその気持ちは薄れていた。でも今の僕は余計なことを考えてしまわないように何かに集中したかったんだ。それに康介の言うように体を鍛えて自分にも自信が持てれば少しは前向きになれるのかな、というわずかな期待もあった。 「ちょうど今日、俺も行こうと思ってたからさ」  そう言った康介は途中にある公園に寄り、ベンチに腰掛け持参していたおにぎりを頬張る。「少し腹ごしらえな」と言って、一つ僕にも分けてくれた。不恰好で大きめな丸いおにぎりを食べていると、康介が僕の顔をじっと見る。先程顔を合わせるなり僕のことを気にしていたから、きっとどうしたのか聞きたいのだろう。それでも何か言いたげな康介から逃げるように視線をそらし、僕は他愛無い話をして誤魔化した。  別に周さんは僕と別れたがっているわけじゃない。  僕が勝手に不安になっているだけなんだ──  ジムに到着すると康介は慣れた様子で受付にいた男の人に声をかける。何やら親しげに会話をし、僕のことを紹介してくれた。 「とりあえず今日は体験、っていうことでいいね? 通えそうなら改めて後日、入会手続きしてくれればいいから」  そう言われて僕は康介と共に更衣室に案内される。そこでレンタルしたウエアに着替え、説明を受けながら少しだけ体験させてもらうことになった。康介はというと、「後でな」とそそくさとトレーニングルームへ行ってしまった。一人黙々とトレーニングを始めた康介を横目で見ながら、僕はスタッフの人に丁寧にマシンの使い方や効果的なトレーニングの方法など教えてもらった。周りを見ると康介以外に数人、汗をかきながら真剣な顔でマシンで体を鍛えているのが見える。康介も僕から見たらかなりいい体をしているのに、そこにいる人たちはさらに体が大きく、俗に言うマッチョで康介が可愛く見えてしまうほどだった。ここに通う人たちはみんなあんなふうな体なのかな、と、鏡に映った貧弱な自分の体を見て不安になる。 「あ、あの、僕なんだか場違いじゃないですか?」 「へ? そんなことないですよ。そもそも場違いとかそういうの誰も思いませんし」 「僕、別にあんなにムキムキを目指しているわけじゃなくて……その」 「あはは、竜太君はダイエット目的でもないし、健康維持、筋力をつけたい、って質問票に書いてありますもんね」  説明をしてくれるトレーナーも、最初に対応してくれた受付の人も、ここのジムのスタッフは皆かなりフレンドリーに接してくるらしい。きっと年齢も近いのだろう。僕はこういうのも嫌ではないから話しやすくて少し安心した。もちろん名前呼びだって問題ない。 「僕らトレーナーは常に数人在中してるので、わからないことがあればいつでも相談してください。康介君もしっかり知識があるから彼に聞いても問題ないですよ。なんなら彼にはここで働いてほしいくらいなんですけどね」  そう言いながらトレーナーが遠目で康介の方を指差すと、振り返った康介と目が合った。トレーナーに教えてもらいながらウォーミングアップを済ませ、ちょっとドキドキしながらマシンに挑む。普段意識して体を動かしていないから、なかなか思うように動かせなかった。 「最初はもっと軽いのからじゃないと……かな」  平均的な成人男性と比べ僕はかなり力がないらしく、初めにセットしてくれた負荷がみるみる軽い設定に変化する。情けないな、と感じながらも手取り足取り丁寧に教えてもらい、何種類か試すうちに全身汗だくになってしまった。

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