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39 気分転換

 最終的には康介も交え、僕は康介とトレーナーに付き添われてひと通りのメニューをこなしていた。 「まあ、自分の好きなペースでね」 「そ、無理せずな、すぐ慣れるし。てかさ、一樹(かずき)さん久しぶりだね」  僕についてくれていたトレーナーは一樹さんといって、康介とは入会時から親しいらしい。受付にいた人といい、社交的で根明な康介は相変わらず誰とでも仲良くなるんだな、と、感心する。一樹さんも康介と似たような雰囲気で、きっと気も合うのだろう。僕はそんなことを考えながらトレーニングを続け二人のやり取りをぼんやりと見ていた。 「そうなんだよ。研修で少しの間、他店舗に行ってたから。康介君、俺いなくて寂しかった?」 「あはは、うん、寂しかったよー」  まるで康介とは友達同士のようにフランクに接している。慣れてくるとここまで近い距離感になるのかと少し驚きつつ、でも楽しそうでいいな、と僕はこの場で入会の申し込みをして帰ろうと考えていた。康介は基本、週に三日ここに来ているらしいから、僕もなるべく康介のいる日に来ようと決める。初心者中の初心者な僕はやっぱり一人だと不安だから。   「そういえばさ、ここには修斗さんは通ってないんだね」  シャワーを済ませ着替えながら康介に聞くと、修斗さんは志音や敦さんが通っているパーソナルジムに行っているのだと教えてくれた。 「そもそもあの人はこういうの面倒くさがるからな。会員になってても滅多に行かないみたいだよ」 「ふうん、そうなんだ」 「竜だってジムなんてあんまり興味なかっただろ?」 「まあそうだけど。でもここなら康介や一樹さんもいるから楽しそうだね。気晴らしになるよ」  僕の目的は体作りもあるけど、気分転換の方が大きい。実際こうやって体を動かし汗をかいてお喋りをしていると、嫌なことを考える余裕は全然ない。 「そか。まあ表情もだいぶスッキリしてるし、よかったな」  康介は僕の顔色を見て、やっぱり少し心配していたらしい。「何かあったらいつでも聞くから」と言ってくれたけど、いつまでも康介に心配かけてばかりじゃだめだと笑顔を作る。でも康介のおかげでまたひとつこうやって楽しめることが増えた。 「ありがとう、康介。じゃ、またね」  とりあえず僕の心の靄はどこかへ消え、すっきりとした足取りで家路についた──    一人真っ暗な部屋に帰る。今日からまたしばらくは周さんと会ううことはない。前回の海外の時ほどではないけど、全国をツアーでまわるらしいから今度会えるのはいつ頃になるだろう。ツアーの最終日はここ地元のライブハウスだということで、僕は周さんからチケットをもらっていた。 「周さんのライブ、久しぶりだな。楽しみだな……」  運動した後だからか、ベッドに横になった途端に僕は深い眠りについていた。

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