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40 飲みの誘い

 ジムに通い始めて一ヶ月程経った頃、僕は一樹さんに飲み会をしようと誘われた。親睦を深めたいとかなんとか言いつつ、これまでの会話から一樹さんはお酒が大好きだということがわかっているので、単に飲みたいだけ、のような気もする…… 「竜太君は康介君とは仲良いんでしょ? 今度さ、みんなで飲みに行こうよ」  一樹さんは僕がここに通うようになって数回ですっかり友人感覚で接してくるようになっていた。僕は慣れないうちは人見知りをしてしまうところがあるから、相手から打ち解けて接してくれるのはありがたい。それでもちょっと距離感が近いからドギマギしてしまうことがある。  この話も、ぜひ康介も一緒に、と誘ってくれるけど、僕はお酒が得意ではないからこういった「飲みの席」は少し苦手だ。でも康介も一緒なら、と一樹さんの話に頷いていた。実のところ、最近は残業が重なったりして、康介とはなかなかタイミングが合わず一緒になることがほとんどなかったから、帰ったら久しぶりに電話でもしてみようと思いながら一樹さんと話を続けた。 「いいですけど、それって合コンとかじゃないですよね? 僕、合コンなら行かないですよ?」  学生の頃、友人に「飲みに行こう」と誘われて行ったら合コンだったということが多くあり、あまりいい気持ちじゃなかったのを思い出す。初対面の女の人に距離を詰められるのは正直苦手だし、周さんだっていい顔をしないだろう。 「そんなんじゃないって。俺だけだから。竜太君と康介君、俺の三人ならいいでしょ? あ、もう一人くらい来るかもだけど、人数多いのもうるさいしね」 「それなら……いいですよ」 「康介君にも前から声かけてたんだけどさ、なんかはぐらかされちゃって行けてないんだよね。あ! もしかして彼、お酒飲めなかったりする?」 「いや、康介はお酒好きですよ。僕はそんなに飲めないけど……」 「そうなんだ。なら竜太君から誘っておいてよ、ね? 歳も近いしさ、親睦を深めたいんだよ」  康介は僕と違い、仲良くなった人とはよく遊んだり飲みに行ったりしているから、はぐらかしていると聞いてちょっと不思議に思った。  「ああ、一樹君、竜に言ったか……」  僕が康介に電話で話をすると、大きなため息と共に康介が嘆く。「嫌ではないんだけどな」と何度も前置きをして、康介は返事をはぐらかしていた理由を教えてくれた。 「いや、ノリも良くていいんだけどさ、ちょっとグイグイ来るから疲れんだよな、あの人」 「え、康介すごく仲良さそうにしてるじゃん。雰囲気も似てるし気が合うんだろうなって思ってたけど……」 「似てる? 嘘でしょ? 俺あんなうるさくねえし」  いや、康介も似たようなものだと思うんだけど、タイプの近い人間はもしかしたら苦手なのかな。 「てか、俺はなるだけ早く帰りたいんだよね。ここ最近、修斗さんとすれ違ってばっかでさ。同じ家に住んでるのに会ってないってヤバいよな」 「そっか。でも一樹さんうるさいから近々行こうよ」  康介の気が乗らない本当の理由はきっとこっちだ。修斗さんも仕事が不規則だから余計に、だよね。

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