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43 狙い

 突っ伏して眠ってしまった康介をはじめ、僕らの酔いもいい具合にまわってきたので飲み会はお開きになった。   「一樹も大概だけど、康介君大丈夫? 歩けるよね?」 「あ? あー、もちろん歩けるし……あれ? もう開き?」  康介を起こし、会計を済ませた僕らは店の外に出る。半分寝ている康介はすっかり一樹さんにもたれかかり、足元が覚束なくなっていた。康介ほどじゃないけど、僕も踏み出す足が時折言うことを聞かずに少々ふらつく。でも頭は割としっかりしているから大丈夫。うん、問題ない。 「竜太君も飲み過ぎちゃった?」 「いえ全然! 大丈夫です」 「……って言う割に、俺にずっともたれてるけど?」  体は真っ直ぐ立っている。ちょっと斜めになって実邦さんに寄りかかってるのは認めるけど、それは大したことない……はずだ。それに僕はへべれけになっている康介を連れて帰らなくてはいけない任務がある。そう、僕は目の前にいる康介を捕まえなくては。 「大丈夫。ちゃんと歩けますし帰れます」  ポケットに入っているスマートフォンに手をのばす。呑んでいる最中にいつの間にか康介から届いていたメッセージを思い返した。そこに書かれていたのは、僕の隣に座っていた実邦さんに「狙われてるから気をつけろ」という内容。確かに酔った実邦さんはやたらと僕の体に触れてきて、少し距離が近いように思えたけど、それはただのスキンシップだ。男子校だった高校時代のノリとは違う。康介は心配しすぎだとわかっているけど、そのせいで僕のかわりに飲みすぎてしまっているのは単純に申し訳なく、ふらふらになってしまった康介は僕が責任を持って送り届けなければと思っていた。  外に出て冷たい夜風にあたると割と頭もシャキッとしてくる。僕は実邦さんから離れ、康介を捕まえようと一歩前へ踏み出した。 「じゃあ康介、僕と一緒に──」 「あぁ大丈夫、康介君は俺が送ってくよ。家も知ってるし、ね」 「おうおう、そうしろ。気をつけて帰れよ」  僕の声に被せるようにして一樹さんが康介を送ると言い出して、康介を抱えるようにして歩き出す。僕はというと状況を把握するのに少し時間がかかり、気がついたら実邦さんと一緒に駅に向かって歩いていた。 「あ……れ? あ、そうか、康介は一樹さんと帰ったんだっけ」 「そうだよ、大丈夫? 竜太君は駅でいいよね?」 「あぁ、はい」  実邦さんの家は駅のそばだし、駅まで送ると言ってくれた。康介からの忠告が頭をよぎったけど、別に実邦さんは厚意で僕を送ると言っているだけだ。「一人で歩けますよ」と、腰に回ってくる実邦さんの手をやんわりと払いながら、僕らはのんびりと駅まで歩いた。  康介は一樹さんが送ると言っていたから大丈夫かな? 僕がボケっとしている間に二人と分かれてしまったけど、一樹さんは康介の家を知っているとも言っていたし…… 「あれ? そういえば一樹さん、康介の家知ってるって言ってたけど……」  いつの間にそこまで仲良くなっていたのかと不思議に思った。それに修斗さんのことだってある。康介のことだから修斗さんのことは伏せているのかもしれないのに、家まで送らせても大丈夫なのだろうか。ただでさえあんなに酔っ払っているんだ。家に修斗さんがいたらどうするのだろう。 「ルームメイトのことも知ってるのかな」 「康介君、一人暮らしじゃないんだ? まあ、ルームメイトのことも家の場所も知らないんじゃないかな? 一樹ってば、康介君と一緒にいたいから適当言ってんだろ」 「え? それってどういう?」  実邦さんの言葉に胸の奥がゾワッとする。この先を聞くのが怖かった。 「あいつずっと康介君のこと狙ってたから、チャンスだって。自分ちに連れてくか……ホテル? かな」  そう言った実邦さんの手が再び僕の腰に回ってきたから、思わず強く払ってしまった。 「あ! ごめんね、違うから! 俺はちゃんと彼女いるからね? 竜太君可愛いけど一樹と違って男は無理だから安心してな」  笑いながらそんなことを言われても僕は安心なんてできるはずもなく、慌てて康介に電話をかけた。

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