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44 惑わす匂い/酔態をさらす康介

 竜が勧められるがままにどんどん酒を呑もうとするから、俺がかわりに呑んでやっていた。  いや、違うな……竜を言い訳にして、俺が単に呑みたい気分になってしまっただけだ。  情けない。  ダサい。  何をやっているんだろう、と少しだけ自棄になってしまった。  うん、少しだけな。  今の俺には修斗さんが圧倒的に足りてない。同じ家に住んでるのに全然会えない。  辛い。  しんどい。  修斗さんは寂しがりだから……仕事だって頑張りすぎてるようにも見えるから、少しでも力になりたくて、癒してあげたくて、何より会話がしたくて修斗さんの帰りを待つ俺に、「何やってんだよ早く寝ろよ」といつもつれない態度。  嫌われたくないから、愛想つかされるのが怖いから俺は言いたい言葉をぐっと飲み込む。修斗さんだって疲れてるんだ……そう自分に言い聞かせてた。でもここまで来たらもう避けられてるのかも、と思ってしまうのも無理ないだろ?  ちょっと呑みすぎてしまった自覚はある。  自慢の体幹が全く機能しなくなって隣に座ってる一樹さんに寄りかかってしまった。一度身を任せてしまったらもう居心地よくて動けなかった。おまけにこの人、修斗さんと同じ匂いがするんだよ? ズルくね? なに同じ香水使ってんだよ、なんだかムカつく。  いつの間にか飲み会はお開きになっていた。回らない頭で店の外に出てみれば、竜の姿はもう見えない。おまけに実邦さんもいない。あんなあからさまに竜を狙ってる奴と二人きりにさせてしまったのかと思い、俺は慌ててあたりを探した。一緒に出たと思ったのに、いつの間に帰ったんだと不安になる。 「竜……竜? どこだ?」 「ん? 竜太君? もう帰ったよ。そんなに心配? 実邦なら大丈夫だから」 「…………」 「なんかやたらと実邦のこと警戒してたみたいだけどさ──」  一樹さんが言うには、実邦さんには婚約者がいてラブラブなんだと。だから俺が心配することはないと言って笑う。 「それに実邦だって竜太君だって男でしょ? ありえないでしょ。康介君、まるで竜太君を女の子のように見てるみたい」 「あ、いや、別に──」  俺を支えながら話す一樹さんの顔が近づく。 「ねえ、もしかしてさ、康介君は竜太君のこと“そういう目“ で見てたりする? 男同士でもありえると思ってる?」  息が耳に触れるくらいの距離で一樹さんはそっと囁く。  あぁ、俺は竜のことを心配しすぎてそんなふうに見られていたのか。竜はあくまでも大切な友人であって、思いを寄せている相手ではない。俺にとってのかけがえのない人は修斗さんだ。 「……竜は違う。友達だから。あと俺はそういう偏見はないよ。全然あり得るでしょ」  俺の言葉に一樹さんはホッとしたように見えた。 「それにしても康介君、飲み過ぎ。ちゃんと起きてる? 気分悪くない」 「あぁ……うん、平気」  実邦さんに彼女がいるとわかって少し安心したら更に眠たくなってきた。そっか、俺の思い過ごしか。そうだよな。竜はすぐ変なのに付き纏われるから心配になるけど、まあ男同士そうそうねえわな。  「ねえ康介君、歩けるよね? 俺につかまってていいから……うん、いい子」 「…………」  近くに感じる修斗さんの匂いがたまらなく心地良かった。ふらつく俺を抱きかかえてくれる腕が優しくて嬉しくなる。  俺はなんでここにいるんだ?   久しぶりに感じる修斗さんの温もりに、心が安らいでいくのがわかる。  でも待って? 違うじゃん。  修斗さんじゃなくて、ここにいるのは一樹さんだ。 「怠いからさ、酔い覚ましに少し休んでいく?」  そう言われて顔をあげれば、するりと手を掴まれて引き寄せられた。

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