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45 酔いがさめる
「すぐそこ、俺の家」
そう言った一樹さんは俺の手を繋いだままどんどん進んでしまうから、ただでさえよろけて足取りが怪しい俺は、もたもたと情けなくついていくのがやっとだった。
「待って……コケる、一樹さん、引っ張んな」
「あ、ごめん。大丈夫?」
「だいじょぶじゃない」
ふわりと回された手が自然に俺の腰に絡む。この人、酔っぱらいの扱いにも慣れている。これは酒好きあるあるなのか。一樹さんが支えてくれるとびっくりするくらい歩きやすい。でもまあ俺もそんなに酔ってないってことだな。ちょっと足がおかしいだけ……
「ありがとね。俺、今日は飲みすぎちゃってさ。いつもはこんなんじゃないんだけど……」
「わかってるよ。はい、もう玄関だから靴、脱いでね。自分で脱げる?」
「うん、ぬげる……」
よろけながら適当に靴をぬぎ、家主の一樹さんよりも先に部屋を進む。少し広めのワンルーム。部屋の奥にベッドが見えて、ふらふらしていた俺はそのベッドめがけてダイブした。
「あー、だめだ、ごめん一樹さん。思わずベッドに飛び込んじまった……あぁ、何だこれ、ふかふかだ、気持ちい……」
今にも眠ってしまいそうになるのをグッと堪え、俺は何とか顔を上げる。いくら酔いが回ってしんどくても、ちゃんと家に帰らないと。修斗さんはもう帰ってきてるかな、なんて呑気に考えていたら、ドスンと俺の横に一樹さんが横たわった。
「遠慮ないね康介君。いいよ、明日休みでしょ? このまま泊まっていったら?」
「いやー、そうしたいところだけど、俺は帰るよ。うん、もうちょっとしたら──」
急に一樹さんに肩を押さえられ、そのままのし掛かられる。俺は何が起きているのかわからなかった。退かそうにもびくともしない。さっきまでニコニコ穏やかに話していた一樹さんの表情がびっくりするくらい強張っているのが分かる。
あ、やべ……これはきっと怒らせたんだ。
俺は酔っ払ってるのをいいことに失礼な態度をとってしまったんだ。そうだよ、初めてお邪魔する他人の部屋のベッドにいきなりダイブして寝ようとすれば誰だって嫌な気持ちになるだろう。
「ご、ごめんて、一樹さん? いきなりベッドにダイブはねえよな? 酔っててバカになってた俺」
「…………」
「一樹さん? 許して?」
一気に酔いが覚めてしまった。冷静になればなるほど自分の失態に腹が立つ。親切に面倒臭い酔っ払いの介抱をしてくれた一樹さんに対して失礼すぎる俺の痴態。
「だいじょぶ、俺、酔い覚めたから! ね? ベッドからも下ります。帰ります!」
起きあがろうにも依然としてびくともしない。俺より体格のいい一樹さんの力に、冷静になりつつある俺は正直ちょっと怖くなってしまった。
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