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46 記念に……
怒らせてしまったと焦る俺に反して、俺を押さえつけながら見下ろす一樹さんはキョトンとしている。許してもらえるかな? とダメ押しで「許して?」とちょっとぶりっ子して言ってみると、ブハッと一樹さんは吹き出し笑った。
「いや、怒ってないからね? 康介君、面白いね」
「……怒ってない? 面白い?」
「うん、怒ってないよ」
そう言った一樹さんは俺のことを優しく抱きしめる。何が何だかわからないでいると、突然「好き」と告白された。
「え? す、好き?」
「うん、康介君のこと、大好き」
「え? ちょっと待って、いや待って、抱きしめないで──」
「やっぱり可愛いね、康介君」
「待って待って! 何このシチュエーション! 俺かわいくねえからね!」
チカラ強すぎ一樹さんに押さえつけられたまま、更に抱きしめられてしまっては本当に身動きが取れない。でも逃れようとジタバタと慌てる俺を押さえつけている一樹さんはめちゃくちゃ笑ってるから、からかわれているのだと察してホッとした。怒ってなかったのは良かったけど、この冗談はちょっと困る。
「冗談──」
「なに言ってるの? 冗談じゃないよ、俺本気」
「わっ! 待って、ちょっ……」
すっと自然な流れで一樹さんの顔が近付く。危うくキスされそうになったのは回避したけど、これって冗談じゃなかったらなんなの? 嫌がらせ? いや、意味わかんねえよ? 一樹さんが俺を? マジかよ……嘘でしょ、泣きそう。
「ごめんて、一樹さん、俺、ダメだって……そんなつもりじゃ」
酔っていたとはいえ、そういう対象で見てくる相手の部屋にノコノコとついていき、ましてや自らベッドに横になるなんて「襲ってください」と言ってるようなものだろう。そんな気はないと言ったところで説得力ゼロだ。これが女の子だったら「なんて警戒心がないんだ」と呆れるレベルだし、速攻食われるのがオチだ。現に俺ですら一樹さんの力には敵わないで組み敷かれているのに、なにやってんだよ俺。油断しすぎて情けない。
「ほんとごめん。俺が軽率だった。一樹さん、やめて……」
そう言うと、やっと一樹さんの腕から解放された。慌ててベッドから下り、俺はその場で座り込む。びっくりしすぎてまだドキドキしている。ちょっと一樹さんの顔が見られない。どうしたものかと俯きながらラグマットの毛をイジイジと毟っていると、一樹さんは俺の横に座って顔を覗き込んできた。
「俺、真剣なんだ。康介君のことが好き。さっき偏見はないって聞いて嬉しかった。俺にもチャンスはあるってことでいいよね?」
俺が「彼女はいない」「男同士でもあり得る」なんて言ったから、「フリーならいいじゃん」と詰め寄ってくる。隙あらば俺の手をとり、体にも触れてくる。ベッドから下りたところで一樹さんはグイグイくるから、俺の身の危険は変わらない気がした。
でもチャンスもクソもない。俺には好きな人がいるんだ。
「あ……うん、それなんだけど、俺、さっきはああ言ったけどさ、実はフリーじゃないんだ」
修斗さんのことは言いたくなかった。修斗さんの迷惑にはなりたくない。だから「好きな人」がいて、自分の気持ちを裏切れない、と、もっともらしい言い訳をした。
「その人とのことはあんまりおおっぴらに言えない関係だから……付き合ってるって言えなくてさ。だから‘いない‘って言ったけど、相手はいるんだ。ごめん。その人のこと、俺も真剣に好きなんだ」
うん、うまく誤魔化せたと思う。こう言えば一樹さんもわかってくれるはずだ。もうすっかり酔いもさめている。覗き込んでくる一樹さんの目を見て、俺はしっかりと言ってやった。
「人に言えない関係って……康介君、そっか。うん、わかった」
なぜか哀れみのような何とも言えない複雑な表情で俺を見る一樹さんは、「わかった」と言いつつ再び俺を押し倒す。は? わかったって言ったよな? どゆこと?
「ちょっと? やだって! 俺の話聞いてた?」
「うん、聞いてたよ。でもいいじゃん、一回でいいから抱かせてよ」
「ぎゃっ、待て待て! ほんと待って! 抱かない! 離れて!」
「記念に一回でいいからさ、優しくするからさ」
「そういうことじゃない! 記念に、とか言うな」
床を転げ回ってなにやってんだ俺は。こんなことになるならさっさと帰ってればよかった。しばらく暴れ回っていたら俺が本気で嫌がっているのをわかってくれたのか、やっと一樹さんは俺を襲うのをやめてくれた。
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