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48 好きな人

 タイミングが悪いとはこういうことを言うんだな── 「えー? なんで? 修斗君、二軒目行くんじゃないのー?」 「は? 行かねえし。初めっから帰るって言ってるじゃん。君らが勝手に来たんだろ? もうついてこないで。はい、離れて」  修斗さんと見知らぬ女達が揉めているのを見つめ、俺は置いてけぼり感に苛まれる。とりあえず一樹さんには「この辺でいいから」と言って帰ってもらった。 「康介ごめんね、お待たせ。帰ろ?」 「……あぁ、うん」  ファンの子かな? あんな邪険にして修斗さんのイメージとか大丈夫なんだろうかと心配になる。でも修斗さんが女の子相手に愛想振りまいてる姿も見たくはない。他所行きの顔、所謂仕事の顔だとわかっていても心の小さな俺はモヤモヤとしてしまうから、今の修斗さんの対応は正直ちょっと嬉しかった。 「さっきまで志音と真雪さん達と食事してたんだよ。撮影のスタッフとかも一緒でさ、なんか知らん関係者とかごちゃごちゃいて、勝手についてきちゃって困ってたんだよね」 「ふうん……」 「なに? 変な顔して。やきもち妬いた?」 「いや、別に」  なんとなく横に並べず、俺は修斗さんの少し後ろをついて歩く。  この人のモテっぷりは高校の頃から知っているし今更だった。昔みたいにいちいち妬いてたら身がもたない。それにこの人が好きなのは俺なんだとちゃんとわかっているから大丈夫。長く一緒にいて、これだけは自信を持って言えるようになったんだ。まあ、たまに自信がなくなる時もあるけどさ。こういうのだっていつものことなんだ。    ただ、俺の存在が修斗さんの邪魔になっていないか、それがひどく心配なだけ。  お酒も入っているのか普段以上に楽しげな修斗さんの後ろ姿を見ながら「相変わらずカッコいいな」なんてすっかり酔いがさめた俺は足を進める。「なに?」と振り返る修斗さんにドキッとしてたら、誰かに腕をぐいっと引っ張られた。 「待ってよー、お兄さんも一緒にもう少し飲もうよ」  さっきの女が性懲りもなくついて来ていたらしく、今度は俺が捕まった。 「おい! いい加減にしろよ。康介から離れて。どこの誰だか知らないけど、これ以上しつこいと人呼ぶよ?」  ささっと修斗さんは俺から女を引き剥がし、怖い顔をして相手を睨んだ。 「あと、さっき勝手に撮ってた画像もすぐ消せ。今すぐ! ほら見せろ」 「えっ、ちょっと、待って……ちゃんと消すから、怒らないで」  少し強引にも見えるけど、女の手にあるスマートフォンを奪おうと修斗さんは手を伸ばす。いつもみたいに冗談ぽい言い方ではなくガチなやつ。今の今まで機嫌よく見えていただけに、急な修斗さんの変化に俺も驚いてしまった。  この人たちはきっと愛想が良くてチャラくて、いつもニコニコしている優しそうな修斗さんしか知らないんだろうな。めちゃくちゃ怒っている修斗さん、俺だって久しぶりに見たよ。怖いよね。わかる。「もう帰るんだからついてくんな」とシッシッと手を払う修斗さんは俺を見て「ごめんな」と謝ってくれた。

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