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49 堂々と
「あんな態度で大丈夫? SNSとかで言われない? 俺のせいで修斗さんのイメージ悪くなんの嫌だな」
やっと帰宅し、俺は心配になって修斗さんに聞いた。
まだ少し不機嫌なのか、修斗さんは口数が少ない。顔色を伺ってみても目を合わせてくれず、何となく居た堪れなかった。
「修斗さん?」
「康介、最近そんなんばっかだね」
「……?」
修斗さんはそう言うと、プイッとシャワーを浴びに行ってしまった。一人取り残された俺は修斗さんの言葉を反芻する。そんなのばっか? イラついてるのってもしかして俺のせい? なにがいけなかったんだろうと悶々と考えていると、さっきとは打って変わってニコニコした修斗さんが戻ってきた。
「この時間に一緒にいられるの久しぶりだよな」
ソファに座る俺の膝の上にわざと腰掛けた修斗さんは、楽しげに振り返ると俺の額にキスをする。とりあえず機嫌がなおったみたいでよかったと安心していると「康介はさ──」と俺の手をにぎにぎと弄り、修斗さんは言葉を続けた。
「康介は俺のなに?」
「へ? なにって──」
「恋人だよな? 先輩後輩、同居人、友人同士……それ以前に大切な恋人、でいいんだよな?」
振り返った修斗さんは真面目な顔で俺を見る。体勢を変え俺の上に跨り体をこっちに向けるから、めちゃめちゃ近距離で「どうなの?」なんて言われても、そんな今更な質問に動揺する俺はなにも言えなかった。
修斗さんはそのままぎゅっと俺を抱きしめ、今度は唇にキスをすると、照れ臭そうに俺の肩に顔を沈める。
「あのな、康介は俺のことを気遣いすぎ。最近特に酷いの気づいてる? 康介が思うほど周りは全然見てないからね」
顔を沈めたままごにょごにょと喋るから、ちょっと聞き取りにくいところもあったけど、修斗さんの言わんとしていることは大体わかった。
「わかりやすすぎなんだよ。俺のせいで……とか、俺がいたら……とか、どうせそんなふうなことばっか考えてるんだろ?」
修斗さんは顔を上げると俺を見つめてニコッと笑う。
「俺は今の仕事は好きだし、康介は嫌かもしんねえけどこれからも露出は増えてくと思う。適当に見えるかもしれないけど俺、結構頑張ってるんだよね。康介、応援してくれてるだろ?」
「うん、そりゃもちろん──」
「だから俺、頑張ってるし、康介如きでどうもしねえから安心して俺の彼氏でいてよ。堂々としていいよ。俺の彼氏、かっこいいだろってあのジムのニヤケ男にも言ってやれよ」
突然の修斗さんからの一樹さんの話題に、ドキッと緊張が走る。にやけ男って、明らかに修斗さんから見ていい印象ではなさそうなのが俺の罪悪感をさらに助長させた。あの時の状況って客観的に見たら俺は「お持ち帰り」されていたわけだし、別に言わなきゃわからないとは言え、きっと鋭い修斗さんには何となくわかってしまっているのだろう。
「なあ、あの男に何かされた?」
「へ?……あ、いや、別に……」
「あーマジか。嘘だろ? なにされたの?」
「えっ、なにもされてませんて!」
どうやら俺は嘘をついてもすぐにわかってしまうらしい。「正直に言え」と互いの鼻がくっつく勢いで凄まれてしまえば、俺は自分の失態を白状するしかなかった。
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