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52 久々のライブ

 周さんたちkany-dropsのセカンドアルバム発売に伴い、ライブハウスを巡るツアーが始まっていた──  例にも漏れず、僕はまたしばらく周さんと会えていない。それでもツアー最終に控えている地元でのライブに僕は招待されていて、それを楽しみに日々を過ごしていた。 「渡瀬先生、今週末はもちろん行くんですよね?」 「え、あぁうん。その予定……」  放課後梅北先生に呼び止められ、また何か面倒ごとを頼まれるんじゃないかと気構えたら全然違って拍子抜けした。 「いいなぁ、せっかく日曜の夜なのに。チケット取れなかったなんて運悪」 「ああうん、そうだね、残念だね、あはは」 「え、なんかムカつく……」  平日の夜はどうしたって仕事があるから難しい。社会人になってから今まで周さんのライブにはほとんど行けてなかったから、学生の時以来だ。だから本当に楽しみで楽しみで、梅北先生の愚痴も他人事のように浮かれて聞いてしまった。ていうかあまり聞いていなかった。 「渡瀬先生、急な仕事とか入ればいいのに」 「ちょっと? 縁起でもないこと言わないでくれる?」 「ふんっ、冗談ですよ」 「いや……本気だよね?」   随分と僕に対して扱いが雑になってきた梅北先生はしばらく一人でぐちぐちと喋っていたけど、別の先生に呼ばれ行ってしまった。よっぽどのことがない限り、休日に仕事が入るなんてことはない。梅北先生の呪いの言葉なんて全然気にすることもなく、僕は待ちに待ったその日を迎えた。 「今日は修斗さんは?」 「あぁ、仕事だろうな。周さんたちによろしく言っといてって、朝出かける時に言ってたわ」  僕は康介と待ち合わせてライブハウスに向かっていた。康介も僕と同じく周さんたちのライブに行くのは久しぶりで、ボーカルでリーダーでもある圭さんが僕と一緒に、と招待してくれたんだ。 「なんか久しぶりだよな。久々すぎて緊張してきた俺」 「なんで康介が緊張してんのさ、可笑しい」  康介曰く、前は身近すぎてあまり気にしてなかったけど、今ではテレビには出ないものの、知る人ぞ知る人気バンドになってしまった周さんたちが少し遠くに感じてしまうらしい。確かに道行く人らを見ると、目的地が同じであろう人たちは皆バンドのロゴの入ったTシャツを着ていたり小物を身につけている。僕にとってはファンが増え人気が出るのも自分のことのように嬉しいことで、康介の言う「遠くに……」という寂しい感情はあまりなかった。 「チケットだってなんなく手に入ってたのが今じゃもう難しくなってるしさ、どんどん先に進んでくって感じ。ベースが修斗さんじゃないのはいまだに寂しいって思っちゃうけど、なんかすげえよな……あ! そうそう、兄貴もいつの間にか独立して店構えてんの。俺、最近知ったんだよね、びっくりしたわ」 「え? 結構前に開業のお知らせハガキ届いたよ。兄弟なのにそういう話ってしないもんなの?」 「あぁ……しねえな、あんまり」 「ふうん、そうなんだ」  康介の兄、陽介さんと会うのも久しぶりだから楽しみだった。新しくオープンさせたというお店は、陽介さん一人でやっている完全予約制のプライベートサロンで、今では予約を入れられるのが数ヶ月先。僕も陽介さんのところに行ってみたいけど、いまだにそれは叶っていなかった。周さんもちょくちょく髪型や髪色を変えてるけど、それも実は陽介さんにやってもらっているらしく、僕はちょっと羨ましかった。今日はみんなのスタイリストとして陽介さんも一緒に来ているらしいから、話す時間があったら僕もお願いしてみようかな。

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