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57 望君

 結局僕はライブ終盤で入ることができたものの、ラスト二曲の途中からしか楽しむことができなかった。それでも湊君の件が解決し、心配事がなくなったから僕の中では満足だった。またの機会があったらもう一度ライブに行けばいいだけのことだ── 「めちゃくちゃ良かった……なんなの? やっぱりかっこいいな……」  康介は久しぶりのライブに感無量の様子で、頬を赤らめ放心している。僕ももれなく康介と同じ状態。改めて周さんたちのかっこよさを目の当たりにし、出会った頃の、あの胸を突かれたような衝撃を思い出してドキドキしていた。  修斗さんと入れ替わりで入った望君ももうすっかり当たり前にメンバーの一員としてそこにいる。初めこそベースが修斗さんじゃない事に違和感があったけど、今となっては修斗さんがいた頃とはまた違った四人の良さが際立っていて、初めからこの四人だったかのようにひとつのバンドとして確立していた。 「僕、今日ここに来れてよかった」 「いや、全然間に合ってないからね? あんな時間に来て何を見たんだよ、なんか可哀想……」  康介に哀れまれたけど、いいんだ。周さんたちの音、あの高揚する会場内の懐かしい空気にまた触れることができて僕は十分満足していた。 「なあ、本当に行かねえの? せっかく打ち上げも呼んでもらえたのにさ」  興奮冷めやらぬまま、僕は康介に先に帰ることを伝えて外に出る。周さんたちもまだしばらく出てこないだろうから、申し訳ないけど康介に事情を伝えてもらおうと話をしていた。 「うん、行きたいのは山々なんだけど、さっきの湊君の件があるから──」 「兄貴も竜に会えるの楽しみにしてたってよ。てか、竜来ねえの周さんに伝えるのヤダな。絶対睨まれるの俺じゃん」  「ちゃんと周さんにもメッセージ送っておくから大丈夫だよ。ごめんね、僕もう行くから」 「マジかよ……本当に帰るの? んじゃ、またな」  湊君の件を一応主任には簡単にメールで伝えていたけど、明日改めて報告をするために今日のところは早めに帰宅したかった。このまま打ち上げに参加したところで湊君のことが頭を過ぎるのが目に見えてるし、きっと周さんは早めに切り上げて僕の部屋に来るだろう。それなら気もそぞろで参加するよりさっさと帰宅して明日に備えた方がずっといい。久しぶりの面々に直接会ってライブの感想を伝えられないのは残念だけど、今回はしょうがないと割り切った。 「なあ、周の──」  康介と別れ歩き出してすぐに後ろから声をかけられ振り返ると、望君が立っていた。思いがけない人物に僕は驚く。周さんたちはまだ中に残っているのに、いつの間に外にいたのだろうか。 「あ、ちょっと人と喋ってたからさ……なに? もう帰んの? 周たちもそろそろ出てくると思うけど」    僕が気になったことがわかったのか、望君は僕が聞く前にそう言うと興味なさそうな顔でジロリと見る。僕らよりひとつ歳下の彼は、康介曰くちょっと生意気。康介は修斗さんの代わりに入った望君がどうにも気に入らないらしく、何かというと「修斗さんの方が映えるのに」とか「キャラが修斗さんと真逆でつまらない」とか、文句ばかり言っていた。学生の頃に何回かライブの打ち上げで一緒になったけど、僕は彼とはあまりお喋りをしていないから実のところどんな人柄なのかはまだよく知らない。ただ周さんとはちょくちょく意見がぶつかるらしく、靖史さんが「あの二人の小競り合いは面白い」と言っていたのを思い出す。  僕は周さんから彼の話を聞くことがないから勝手な先入観で少し苦手意識を持っていた。

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