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58 帰宅

「てか君、ライブ来てたんだ」 「ああ、うん。ちょっとしか見られなかったんだけどね。相変わらずカッコよかったよ。僕、ライブ久々だったから興奮しちゃった」 「ふうん、そう」  望君は表情筋がどこかへ行ってしまったのかと思うくらい表情がほとんど変わらない。僕とこうやって面と向かって喋っていても、愛想笑いのひとつも見せない。機嫌が悪いのか何も考えていないのか、とりあえず笑顔は見られないから、残念ながら快くは思われていないのだろう。 「あ、これから打ち上げなんでしょ? 僕、ちょっと用があって参加できないんだ──」 「そう。まあ別に君、部外者だし問題ないでしょ」  望君は鼻で軽くふんっと笑うとライブハウスに戻って行った。わざわざ声をかけてくれたのは嬉しかったものの、冷たい物言いに気持ちが萎える。確かに部外者にはかわりないけど、こういう時だけ笑顔なのはどうかと思う。笑顔と言っても馬鹿にしたような表情だったけど。元からそっけない人物なのか、はたまた僕のことが気に入らないのか……それにしたってちょっとあの言い方はないんじゃない? とモヤモヤしながら僕はひとり駅に向かった──  楽しみにしていた周さんのライブ。残念ながらちゃんと見ることができなかった。でも思いがけず生徒の湊君と話すことができたのはよかったと思う。興味の話、友人関係の悩み等、そんな少し弱い部分を僕に見せることができたことは彼にとって何か変われるきっかけになったかもしれない。そうであってほしいなと僕は願う。  主任からの返信に、詳しい経緯は明日の放課後に、とあった。夜に一人で学校区外の繁華街にいたとだけ聞けば問題だけど、湊君がそこにいた理由や迎えに来てもらった親御さんからの謝罪を踏まえて、同じことが繰り返されることはないとわかるから、直接のお咎めはないだろう。  「なんか疲れちゃったったな……」  ライブの高揚感はとっくに消え、電車に揺られていた僕はじんわりと眠気に襲われる。座っていたら間違いなく寝過ごしてしまいそう。打ち上げは始まったかな? と時計に目を落とし、周さんから何かメッセージが来てないかとスマートフォンを確認するも、なにも返信がなくてちょっと残念。代わりに梅北先生から「ライブどうでした? 楽しめました?」とメッセージが来ていて返信に困ってしまった。  帰り道中にコンビニに寄り、簡単につまめるものと明日の朝食になりそうなものを買う。ひんやりした夜風にあたりながら歩いていても眠気は消えることもなく、これは帰ったらすぐに寝てしまいそうだな、なんて思っていた通り、帰宅した僕はシャワーだけなんとか済ませ、あっという間にベッドに沈んでしまった。

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