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61 人間関係
放課後の学年会議で湊君の件を皆に伝えた。
湊君は今日は遅刻もしないで登校し、一度も保健室や学習室に行くことなく全ての授業に出席することができていたのも幸いして、あまり咎められることもなくこれからも変わらずの見守りと指導を続けていくことに落ち着いた。
会議の最中、梅北先生の視線がうるさいのが鬱陶しかった。この後言われるであろう言葉がわかっているだけに僕は早々に帰り支度を始め、さりげなく彼女から遠ざかる。
「渡瀬先生。今日は早いんですね。もう帰るんです?」
「……梅北先生、お疲れ様です」
結局ニヤニヤした梅北先生に捕まってしまい、僕は半分諦めながら足を進めた。「急な仕事とか入ればいいのに」なんて言っていた彼女の言う通りになってしまって、僕はろくにライブを楽しめなかったのが悔しかった。
「ライブ、どうでした?」
案の定、ワクワクした顔で僕に質問を投げかける彼女の瞳は、これといって意地悪を言っているふうでもなく、純粋にライブの感想を聞いているように見え返事に困ってしまう。悪気はないと分かっていても僕は嫌な言い方になってしまった。
「どうでした、って……さっき話した湊君のことで僕、ほとんどライブ見られてませんけど」
「えっ、なんて?」
おそらく思ってもみなかった返事を聞かされ、梅北先生はポカンとして固まっている。小さなため息を吐き、僕は話を続けた。
「だから、最後の二曲くらいしか見られませんでした。梅北先生の言う通りになりましたよ。急な仕事!」
「嘘でしょ? 江部君のこと、そんな時間かかって……」
「しょうがないじゃないですか。彼のこと放っておくこともできませんでしたから」
「あ、確かに……えぇ、でも、そんな……うわぁ、残念でしたね。渡瀬先生」
途端に哀れみを帯びた瞳で見つめられ居た堪れなくなる。「今度は一緒にライブ行きましょうね」なんて言ってくる梅北先生に「ご縁があれば」と返事をし、僕はそそくさと家路についた──
「なあ、ほんと大変だったんだから!」
後日康介と飲みにいった際、ライブの打ち上げの話を聞かされた。康介曰く、酔いの勢いで望君が周さんに絡み出し、なぜだか間に挟まれてしまった康介はその場から逃げられずに二人の相手をさせられていたらしい。主に周さんのなだめ役。二人の真ん中に座ってオロオロしている康介を想像しただけで申し訳ない気持ちでいっぱいになった。いや、僕が悪いわけじゃないと思うけど……とりあえず謝っておく。
「ごめんね。周さんも珍しく酔っ払って帰ってきたよ」
「……でしょうね!」
周さんが何を言われて怒っていたのか、望君が何を言って周さんに絡んでいたのか康介が詳しく教えてくれないのは、きっと僕のことを悪く言っていたからなのだろう。
「望君てさ、なんか誤解してるって言うか、いや、なんていうか、分かってるのにわざと嫌なこと言って周さんを怒らせてるようにも見えるんだよな。あれなんなんだろうな……そんなに周さんのこと嫌なんかな?」
望君の話を聞いていた康介も気分が悪かったと言いつつも、気になるのか不思議そうに首を傾げる。周さん自身も言っていたけど、彼とはウマが合わないのだと思う。ちょっと適当でいい加減なところのある周さんと、真面目な望君。靖史さんが言うには望君は周さんの「お母さん」かのような振る舞いをすることが多々あるみたいで、度々周さんの言動を注意しては揉めているのだそう。
「周さんのことが嫌というか、望君って真面目だからきっと周さんみたいにちょっといい加減な人とは合わないんじゃないかな」
「あぁ……周さんのいい加減さは“ちょっと“じゃねえけどな」
俺もあの人はちょっと苦手だ、と、ため息を吐く康介と、内心複雑な僕。一緒に活動をしていく上で仲がいいことに越したことはないんだけど、人間関係って難しい。
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