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62 ことごとく/周と望

 ツアーも終わり、また俺はいつものように竜太の部屋に帰る日々。一緒には住んでいないけど、何もなければほとんど俺はこの部屋に帰るから同棲しているようなものだった。 「あ……もう寝てるか」  合鍵で部屋に入るともう既に電気は消されていて、竜太は寝室のベッドで眠っていた。俺がいつでも入れるようにと左端に寄って小さく丸まって眠っている姿に愛おしさが込み上げる。竜太を起こさないように俺は静かに部屋を移動しシャワーを浴び、ぼんやりとリビングで一人寛ぐ。互いの生活リズムが違うからこういったすれ違いはいつものこと。何年もこういう生活をしているから、これといって不満もないし当たり前のことだった。  ツアー最終日──  この日のライブは竜太も招待していて、久しぶりだと喜んでくれていた。竜太のトラブルがなければ何事もなく終わるはずだったのに……いや、トラブルがなくてもきっと同じだったかもしれない。ライブ終わりの打ち上げで望はいつも通りに俺に対して棘のある言い方をしてきて揉めてしまった。  望は辞めた修斗の代わりに入った男。最初の印象は物静かな奴だな、程度。なにぶん修斗が賑やかでうるさい男だったから、望の静かさが一層際立って見えていた。俺の周りにはいないタイプの人間だったから、大丈夫かな、と心配になったほどだ。でも俺のそんな心配をよそに、こいつは思った以上に生意気だったし、何より理由はわからないけど俺にばかり突っ掛かってくるからしょっちゅう喧嘩になっていた。  今回だってまたいつものこと……そう思っていたのにきっと俺が思うところがあったせいで、いちいち望の言うことに動揺しイライラしてしまった。  この男は俺がバンドのことより竜太のことを優先しがちなのが気に入らないらしい。そんなつもりは全くないけど、こいつにはそう見えるみたいだ。ことあるごとに「別れろ」だの「将来がないのに馬鹿みたいだ」「男子校のノリだけでここまで付き合ってるのが気持ち悪い」だの言いたい放題。俺に対してああだこうだ言うのは構わないが、最近では竜太のことまで悪く言い始め、挙げ句の果てには「どうせ竜太はよその女と結婚するのだから目を覚ませ」「男がいいなら俺にしろ」なんて訳のわからないことまで言い出す始末。俺らのことを何も知らないくせに言いたい放題な望の言葉に、俺はイラつきながらも少しショックを受けていた。  起こり得ない未来のことを想像し、勝手に一人落ち込んだり、本当に俺は竜太の隣にいてもいいのか、自分の都合で竜太を縛り付けることにならないだろうか、と馬鹿みたいに自問自答していた。竜太との付き合いが長くなるにつれ、こういったネガティブな思いが顔を出し俺を蝕む。そんな気持ちを見透かしてか、望の放つ言葉がことごとく俺に突き刺さり、どうしようもなくイライラしてついつい飲みすぎてしまった。以前の俺ならなんとも思わなかっただろうそれらの言葉にいちいち動揺させられるのが気に食わなかった。きっと康介に止められなかったら一発くらいぶん殴っていただろう。

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