64 / 81

64 竜太の力こぶ

「あ、やだ……待って周さん。ふふ、くすぐったいって。はなして、あっ、ちょっと──」  竜太のシャツの中に手を忍ばせ柔らかな肌に触れる。シャワーを浴びていたのか、少しあたたかく湿った素肌に俺の手が吸い付いた。 「竜太。気持ちい」  服を捲り上げ、顕になった竜太の腹にキスを落とした。「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げた竜太は慌てて俺から離れようと体を離す。「ちょっと、待って……」と俺の腕の中でモゾモゾしている竜太が可愛くて、俺はわざと手を緩めたり強めたりしてベッドの中で弄んだ。 「もうっ、周さん? ダメですよ。ごまかさないでちゃんと着信を確認してください。はい! 起きて!」  色気も何もあったもんじゃなく、竜太はグイッと力ずくで俺から離れスマートフォンを奪って画面をタップする。昔は腕力諸々ヘナチョコだったはずなのに、いつの間にかそこそこ力も強くなっていて、竜太も同じ「男」なんだよなと改めて実感する。 「竜太、強くなったよな……」 「へ? なんですかそれ。僕、最近ジムに行って体鍛えてるって言いましたよね」 「あ、ああ、そうだったな」 「あ! でもちゃんと効果あるってことですよね? なんか嬉しいかも。見て見て、周さん、腕とかちょっとムキってなってます?」 「いや……全然だな」  俺の腕の中から抜け出た竜太は俺に跨り、ちょっと得意げな表情で細い腕を見せつけ、全然目立たない力こぶを作った。  竜太がジムに行くんだと言ってきたときは驚いたけど、健康のため、というのと自分に自信をつけるため、と俺に話した竜太もまた、俺と同じに二人の未来に不安になったりするんだろうか。お互い言葉には出さずとも、付き合いも長くなればなんとなくわかるものの、無邪気に笑っている竜太を見ると今そんなこと考えててもしょうがないよな、と前を向くことができるから不思議だ。 「もうっ、そんなことよりはい、電話見てください」  そう言って笑顔を向けた竜太は可愛らしい力こぶをしまい、思い出したように俺にスマートフォンの画面を見せる。これは一旦受け取らないといつまでも続くと思った俺は、渋々着信の画面を確認した。   「着信は、望……と、圭さんからだ」  俺は履歴を確認しながら何事かと思い入っていたメッセージを見てみると、まあなんてことはなく、明日のスタジオは遅刻せずに来るようにという、いたってどうでもいい内容だった。 「なんだよ。急用じゃねえし、大丈夫だ」 「え? 本当ですか?」  こういうことにあまり信用がない俺は、疑いの目を向ける竜太に改めてスマートフォンの画面を見せる。なんでこんなことをわざわざ? と少し不思議に思っていたら再び着信音が鳴り、慌てて出てみると圭さんからだった。 『あ、もしもし周? 休んでるとこ悪いな。竜太君と一緒なんだろ? ただ明日の確認したかっただけでさ──』  どうやらまた望が俺に何か嫌味でも言いたかったらしく、圭さんがそのフォローを入れるために俺に連絡を寄越したらしい。ほんとなんなんだろうな、望の奴。 『望はさ、周のことが大好きなんだよな』 「……は?」  望がやたらとちょっかいをかけてくるのは俺のことが大好きなのだと圭さんは笑うけど、絶対そんなことはないと断言した。

ともだちにシェアしよう!