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66 意外な選択
「同窓会? 何? いつ? 俺も行く」
「いや、ダメですよ。周さん学年違うでしょ。いやそう言ってくれるのは嬉しいですけど……」
「竜太は行くの?」
「え? もちろん。しばらく会ってない友達と会えるの楽しみです」
「……ふぅん」
少々不満げな周さんを横目に、僕は店の中に入る。服を買うのも久しぶりだ。ああでもない、こうでもないと店内をうろうろ巡り、優柔不断なせいでなかなか決められずにいた僕は気さくな店員に何度も声をかけられてしまった。一人で買い物をしているときはこういった接客はありがたいけど、周さんと一緒の時は放っておいてほしい。そんな思いもあり適当に会話をしていたら、僕と周さんが兄弟だと勘違いをして話してくる店員のせいですっかり周さんの機嫌が悪くなってしまった。僕としてはこんなにカッコいい周さんと兄弟だと言われるのは満更でもなく寧ろ少し嬉しいと思ってしまったけど、どうやら周さんにとっては不愉快極まりなかったらしい。
「あいつどんだけ目悪いんだよ。俺と竜太が兄弟なわけあるかっての」
なんとなく周さんの着ている服と似たようなものを購入し、会計を済ませる。もちろん周さんの見立て。またお揃いのものも欲しくなっちゃったな、と周さんの顔を見ると、まだ先ほどの店員のことで不貞腐れてブツブツ言っていた。昔から周さんの機嫌は子どものようにわかりやすい。嘘がつけない……というか顔に出てすぐバレてしまうところや、喜怒哀楽がはっきりしているのは僕が周さんの好きなところの一つだ。この後のランチは周さんが行きたい店にしようかな、と顔色をうかがうと、何か言いたげな口をした周さんと目が合った。
「──ほら、ずっと一緒にいると 似てくるって言いません? 長年連れ添った夫婦の顔がどことなく似ているとか……ふふ、僕、周さんと似てるって言われたのちょっと嬉しかったですよ」
「竜太がそういうならいいんだけどよ、客に対して失礼だろ」
周さんが何をそんなに怒っているのかわからなかったけど、とりあえず僕の言葉で少しは機嫌が戻った様子で安心した。
今日は少し遅めのランチ。
周さんが「近いしここでいいんじゃね?」と、指差した店は謙誠 さんの店だった。周さん自ら謙誠さんの店を選ぶのは珍しい。なんなら避けていたくらいだったのに。
「昼の時間過ぎてるし、もう空いてるんじゃねえかな」
謙誠さんは周さんのお母さんである雅 さんと再婚した相手。そう、周さんのお父さんだ。この辺りや郊外で何店舗も飲食店を経営している人で、もちろん僕も会ったことがある。周さんと謙誠さんはとりわけ仲が悪いわけではないけど、きっと気まずさや照れ臭さがあるのだろう。最近ではあまり周さんから家族のことは聞かなくなった。
「まあ、あいつが店にいるとは限らないしな。何店舗もあるわけだし……」
そう言いながら周さんは店の扉に手をかけ、僕をエスコートしてくれた。
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