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69 懐かしい面々

「久しぶりだよね! 元気にしてた?」  こちらに向かって歩いてきたのは斎藤君だった。斎藤君はあの頃と変わらない愛嬌のある笑顔で僕を見る。彼は少し僕と似たところがあり、よくトラブルに巻き込まれたりしていたからか一緒にいることも多く、なにかと僕を気にかけてくれていた。卒業してからはそれっきりだったけど、こうやって当時と変わらず接してくれるのが嬉しかった。 「さっき鷲尾(わしお)君も見かけたけど……あ! 周さんたちとは今でも?」 「ああ、康介はどこか行っちゃったね。周さん? 今でも一緒にいるよ。仲良くさせてもらってる」  斎藤君も周さんたちの活躍を今でも応援していると言ってくれ、最近の周さんたちのライブの話だったり、自分達の近況報告など会話を楽しんだ。立食形式の会だからその場にいる皆自由に行き来しながら酒を飲み、豪華な食事に舌鼓を打っている。僕はお酒は控え目に斎藤君と話をしていた。 「……なんだろ?」  僕らから少し離れたところにいるグループが遠目にこちらを見ながら何かをコソコソと話している。見ても知った顔じゃなく、僕は首を傾げた。 「あ、周さんや志音君は有名だからさ、さっきからコソコソ言ってる人いてちょっと嫌なんだ。渡瀬君、気にしなくていいよ」 「あぁ……なるほどね」  こういうのは高校生の頃からあったことだ。ああいうこそこそとした噂話も、親しくないのに急に馴れ馴れしく接してくるのももう今更気にしない。 「ああいうのって全然変わらないんだね」 「ほんとだよね」 「おお! 斎藤じゃん! 久しぶりだな、卒業ぶり? 変わんねえなー」 「ふふっ、鷲尾君も」  もうすでに少し頬を赤く染めた康介がグラス片手にご機嫌で戻ってくる。康介は斎藤君と改めて挨拶を交わし、「はいはい皆さま、こんばんは!」と突然聞こえたマイクの音の方へ顔を向けた。 「改めまして! 幹事の遊佐真司(ゆさ しんじ)です。今日のこの日のために、皆さまお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。本日は各クラスの担任の先生方と、ここにいるほとんどの生徒はお世話になっていたであろう保健医の高坂先生にもお越しいただいております。短い時間ではありますが、思い出話、馬鹿話に花を咲かせたり新たに交友関係を築いてみたり、と、楽しい時間を過ごしましょう──」  懐かしい元気な声。司会をしているのは真司君だった。当時の彼は演劇部で、文化祭で僕らは劇をやったっけ。なぜか僕が主役で彼は女の子役。あぁあの時は色々大変だったな……と若干苦い思い出が蘇った。でも賑やかな真司君のおかげで高校時代の僕は楽しい経験をすることができたと思う。 「真司君、幹事だったんだね。なんだか高校のころよりカッコ良くなってる」 「えー? そうか? あいつだって全然変わんねえよ。あの調子いい感じ、そのまんま」  僕は高坂先生が来ているなんて思ってなかったので、話をしながら姿を探した。思いのほか人が多く、他の先生方の姿はちらほら見えたけど、高坂先生は見あたらない。 「ねえ、高坂先生ほんとに来てる? 康介、見かけた?」 「んにゃ、気が付かなかった……いるのかな?」  そんな僕らの背後から突然の大声。何事かと振り返れば、満面の笑顔の真司君だった。   「竜太! いたいた! 元気してた? お噂はかねがね康介から」 「ふふ、なにそれ。真司君も久しぶり」  相変わらずの距離感で僕の肩に手を回しながら話しかけてくる。康介は「うわ、うるせえ」と苦笑いだ。 「成人式の後くらいに会ったっきり? 真司君、カッコよくなっててびっくりしちゃった」 「おぉ、まあな! 竜太はあんま変わんねえな。康介は……って、こないだ会ったか」  康介の職場と真司君の劇団の稽古場が近いらしく、なんだかんだしょっ中会っているらしい。劇団に所属して俳優活動をしている真司君の舞台も康介は修斗さんと何度か観に行っているとも言っていたから、親しくしているのだろう。 「今度改めて飲みにでも行こうな。いつがヒマ?」  僕の肩を抱いたままの真司君はそう言ってポケットからスマートフォンを取り出した。

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