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71 いつもの店
会もお開きになり、僕らは会場を後にする。真司君も斎藤君もまた次の再会を約束して帰っていった。
「さて、と。行きますか」
僕と康介は一緒にタクシーを捕まえて乗り込んだ。高坂先生は一足先に会場を出ていて、その目的地は僕らと同じ。結局同窓会に間に合わなかった志音が、悠さんの店にいるからと連絡を寄越したのは三十分ほど前のこと。高坂先生は初めから終わったら志音と落ち合う予定だったらしい。
「さっき斎藤が自分の結婚のこと言い出さなかったら、俺、うっかり余計なこと喋ってたかもしれねぇ。高坂先生が指輪してるなんて意外だろ? 志音は仕事柄つけてないと思うけどさ」
「そうだね。斎藤君にもびっくりしちゃったね」
「それな!」
「…………」
授かり婚とはいえ、自分達ももう結婚をして家庭を持っていてもおかしくない年齢になったんだと改めて気付かされる。
「……なんか不思議だね」
「え? なにが?」
ちゃんと前に進んでいるはずなのに、自分だけが取り残されているような、時が止まってしまっているような、なんともいえない気持ちになった。きっと康介も僕もこのまま変わらず歳をとっていくのだろう。周りの環境はどんどん変化していくのに……
その時僕はなにを思うのかな。焦ったり不安になったりするのだろうか。それともなにも感じず、周さんと一緒に笑えているのかな。大丈夫だという自信とよくわからない不安が交互に顔を覗かせ、若かった頃の自分がよく悩んでいたことが再び蘇ってくるようだった。
隣に座るちょっと酒臭い康介の顔を見ながら「僕らも大人になったね」と零したら鼻で笑われてしまった。
悠さんの店に入ると、すでにカウンターの席には見覚えのある後ろ姿が。
「志音! お疲れ様」
「あ、竜太君と康介君。久しぶり!」
笑顔で振り返る志音は高校生の頃とあまり変わらない。仕事仕様の志音とはまるで別人だけど、どちらも目を惹く男前だ。それは隣に座る高坂先生も同じ。カウンターの中には悠さんもいて、三人でお喋りをしていた。
「俺、あそこの隣座るの勇気いるかも……」
「はは、ちょっとわかる」
僕らはカウンターではなく奥のテーブル席に移動し、久しぶりの再会を楽しむ。
悠さんの店には何度も康介と訪れていたけど、高坂先生と志音の二人に会うのはかなり久しぶりだった。先ほどの会話を思い出し、さりげなく志音の指をチェックしてみたけど、思った通り志音の指にはなにもなかった。それでも以前報告してくれた通り、二人はちゃんと家族なんだよな、と思わず志音を見つめてしまった。
「ん? 大丈夫? 竜太君、だいぶ飲んでる?」
「ううん、そんなに……あ、康介はね、結構飲んでるよ」
「俺? 酔ってねえよ」
真っ赤な顔をして全然説得力のない康介が、ヘラヘラしながら悠さんに特製おじやを注文する。お酒を飲んだ後の悠さんのおじやは特に絶品。なぜだかスッキリと元気になれるんだ。「ひと口ちょうだいね」とちゃっかり康介におねだりし、僕はウーロン茶を注文した。
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