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75 ストーカー
「人の女に手ぇ出しやがって!」
「……え? お、女?」
ものすごく怒っているこの人には悪いけど、本当に僕にはなんのことだかわからなかった。建物の影に押しやられ、肘で喉元を押さえられたままの僕はなんとか声を出し彼の顔を見た。
「晴香だよ! 知ってんだろ? 職場同じだろうが!」
「晴香? え? 待って、ほんとに誰?」
もしかしてこの人の言う「あいつ」とは周さんのことかな? と少し頭をよぎっていたけど、知らない女の人だとわかり拍子抜けする。でもこの名前、どこかで聞いたことがあるような……と思ったらまた突き飛ばされてしまった。
「梅北晴香! よく知ってんだろ」
「え? 梅……梅北先生?」
そうだ。梅北先生の名前は晴香だ。それを聞いてやっと僕は理解した。この人は以前梅北先生が言っていたストーカーと化した元彼。関わってはいけない人物だったと後悔するももう遅い。なにをどう勘違いしているのか、この人から見た僕は梅北先生を誑かした邪魔者らしい。
「あいつは俺の女なんだよ。知ってて手を出してんなら容赦しねえぞ」
「いや! 僕関係ないから! 手も出してないし!」
「晴香だって困るだろ、その気もないのに言い寄られたら」
この人と梅北先生が付き合っていたのって結構前だと思っていたけど、この口ぶりからまだ今でも自分と交際が続いていると思ってるのかな? いや、流石にそれは無理があるんじゃない? なんで今頃こんなふうに言ってくるのだろうか。梅北先生は元彼に付き纏われていると言っていたから、きっと僕と食事に行ったりしているのを陰で見ていて、それで勘違いをしているんだ。
でも「俺の女」と言っている割に、それを当人には直接言わないで僕のところに来て文句を言い、あたかも現在進行形で交際しているようなことを言っているけど、梅北先生曰く「過去のこと」だ。この人は梅北先生とはもうとっくに別れて他人になっていることをちゃんとわかっていて、それでも認めたくなくて、僕が梅北先生に手を出したのだということにしているのかもしれない。ていうか、僕を勝手に関係者に仕立て上げてまき込まないでほしい。
「ちょっと! 放してください! あっ、痛っ!」
またもや胸ぐらを掴まれ捻り上げられ身動きが取れない。いい加減なんとかしないと危ないし誤解を解かないと、と策を練っていたら、男の背後から誰かが声をかけてきた。
「なあ、なにやってんだ?」
突然の声に驚きビクッと体を震わせ怯んだ一瞬で、僕はどうにか男から逃れることができた。
「はぁっ……ケホっ……痛っ……」
押さえつけられていた鎖骨あたりが息を吸うたびに少し痛む。壁に打ち付けられた後頭部は出血はしていないようだけどヒリヒリする。それでも第三者の登場で身の危険は回避できたと思いほっとした。
「お前には関係ないだろ! 誰だよ、来んな!」
「ああ、全く関係ないし、それに話聞こえてたけどそこの人だって関係ないでしょ」
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