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79 後日
「ほっんとにご迷惑をおかけしました! ごめんなさい、渡瀬先生! 私はどうお詫びしたらいいのやら──」
昨晩の一件はすぐに梅北先生にも電話で伝えていた。勿論その時に物凄い謝罪は受けたけど、出勤してすぐにまた梅北先生に捕まってしまい、周りが驚くほどの大声で謝られてしまった。
「梅北先生、落ち着いて。僕はなんともなかったからいいんです。それより昨日も言いましたけど、ちゃんと警察に相談しました? 大丈夫?」
「はい。一応ストーカー被害として話聞いてもらえました。あいつ、不思議なことに私には何もアクション起こしてこないんですよ。メールすらないの。ただただ付き纏ってくるだけ。意味わかんないですよね。それなのに私とまだ付き合ってると思ってるのなんなの? 腹立つ! 渡瀬先生のところにも現れて信じらんない!」
以前も軽い物言いでちょっとびっくりしたけど、今回は流石にちゃんと警察に相談したようで少しほっとした。元彼が僕にだけ接触してきてああ言ったのは、きっと僕が弱そうに見えたから。結局のところナメられたのだと思うとやっぱり腹も立つ。それに腹立ちついでに望君の件でも僕は昨日から嫌な気分は継続していた。「ほんと最悪だよ……」と思わず溢したら、また慌てて梅北先生は僕に謝った。
なにはともあれ、本人も警戒を続ける様子だし、接触禁止の措置もとってくれるらしいのでこれ以上は問題ないかな。ちなみに周さんにはまだこの話はできていない。昨晩の電話でもいつものようにちょっとの他愛無いお喋りと「おやすみ」という挨拶だけ。そう、いつも通りの会話しかしていない。まあ僕がストーカーにあっていたわけじゃないし、少し揉めただけだからわざわざ言って心配かけることもないだろう。バンドメンバーである望君には迷惑をかけてしまったかもだけど、嫌な気分にさせられたのとは別にしてちゃんとお礼は言ったし、はっきり言って個人的にはもう関わりたくない。もしかしたら望君から周さんに話がいくかもしれないし、もしそうなら周さんから連絡があった時に言えばいいやと思い、黙っていることにした。
「渡瀬先生、お詫びに奢ります! 今日飲みに行きましょ!」
「いやいや、それは遠慮しておきます」
息巻いた梅北先生に誘われたけど、申し訳ないけどお詫びなんてしなくていいし、一緒に食事する気にもならない。昨日の今日でなにを考えているんだと呆れながら「ほとぼりが冷めたら」と、丁重にお断りした。
結局、周さんからもあれからなにも言われていない。まあなんとなくわかってはいたけど、望君はなにも伝えなかったのだろう。そもそも最近は忙しいのか僕は周さんと会えず、連絡もなく、数日が経過していた──
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