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80 変化

 そう言えば周さんからなにも連絡が来ないな、と気がついたのはストーカー騒動があってから二週間ほど過ぎていた頃。それでも全く音沙汰無しというわけではなく、僕の方からたまに送る挨拶程度のメッセージに一言二言の返事が付く程度の生存確認のような会話はあった。この歳になればお互い忙しいのもわかっているし、寂しいと思う事もあるけど、それを馬鹿正直に伝えたところでどうにかなるものでもない。困らせたくないから余計なことはあまり言わなくなっていた。 「竜、周さんとは最近会ってる?」  いつものように康介と二人で呑んでいたら、少し心配そうな顔でそう聞かれた。なんだかんだ康介は修斗さん経由で周さんのことをよく聞いているらしい。修斗さんが「最近周と連絡つかないんだよな。つまんね」とぼやいていたのを聞いて、気になったのだそう。でも忙しい修斗さんが周さんとよく飲みに行ってしまうのが気に入らなかった康介にとっては、今くらい音沙汰無しなのがちょうどいいんだと笑った。僕も連絡ないな、とは思っていたけどさほど気にすることもなく、忙しいのだろうとしか思っていなかった。 「いや、ここのところうちにも来てないし、連絡ないよ」 「……ふうん、そうなん? 気にならん? 大丈夫?」  僕の言葉に、なんだか納得いってないような変な顔をして康介は首を傾げる。よくよく聞けば、また僕が周さんと会えないからと意気消沈していると思って飲みに誘ってくれたらしい。相変わらず康介は僕に対して過保護だ。  周さんはライブだったりスタジオ練習だったり、曲作りや誰かのサポートで演奏したり、僕の知らないところで忙しくしていることはちゃんとわかっている。仕事をしている時間だって僕のように決まった勤務時間ではないのだから、こういうすれ違いも想定内。会えなくてもSNSで上がってくるみんなの様子で顔も見られる。いちファンとして楽しんでいるところもあるから僕は平気なんだ。 「まあ周さんに限って……な。うん。むしろ仲悪いもんなあの二人は……」 「ん? あぁそっか、それね。うん、それこそ僕は全然気にしてないよ」  康介が言いたいことがわかって僕も頷く。康介が心配しているのは他の理由もあってのことだった。ここのところSNSで上がってくる写真。どういうわけか周さんと望君のツーショットのものが増えた。そしてそこに映る二人が今までになかった雰囲気で、僕から見たら違和感しかない。周さんも望君も、他者から見たらあまり喋らずクールな印象。決して仲が良さそうな二人ではない。それなのに日々上がってくる画面の最近の二人は妙に近い距離感で、真顔の周さんとは対照的に笑顔で寄り添う望君の姿が多くなっていた。プライベート感が増した投稿のコメント欄には、「実は仲良し」とか「実は付き合ってる」とかファンがふざけて盛り上がってるし、それに対して否定もしないから変に噂が立ち始めていた。 「アイドルじゃないんだからさ、ライブの写真とかだけでいいんだよ。それに望君さ、キャラ変更? 女受けがいいんだか知らんけど別人で気持ち悪いよな……て、俺さ、前から思ってたんだけど、あの人が周さんや竜に突っかかるのって、その……もしかしたら周さんのこと……」  僕のことを心配して言ってくれてるのはわかるけど、康介もネットの書き込みに影響されすぎだと思う。康介らしいといえば康介らしいのだけど、あまりに真面目な顔をして言うもんだから笑ってしまう。 「ふふ、それはないんじゃない? 周さんと望君、仲悪いじゃん」 「いや、好きだからわざと、ってこともあるだろ」 「好きな子に意地悪しちゃうって? 小学生じゃあるまいし。ないない。康介ってば心配しすぎ」  僕はグラスに残った酒をグイッと飲み干し、例の投稿の「いいね」をタップした。

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