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83 棘

 休み明け、何事もなかったかのように周さんから連絡が入った。  何日……いや、ひと月以上音沙汰もなしだったのに、そのことには全く触れずに「今日の夜、そっちに行くから」と一言だけのメッセージ。思えばそんなの以前からよくあったことでそれが周さんらしくもあり、これまでも気にならなかったはずなのに、今は心がちくちくしてしまってしょうがなかった。なんとなくそのメッセージには返信せず、既読だけつけて僕は周さんが来るのを待った。 「いらっしゃい周さん。なんだか久しぶりですね」 「あ? そうだな」  普段通り、なにも変わらない周さんが合鍵を使って僕の部屋を訪ねてくる。ただ僕の機嫌があまりよろしくないのは察したらしく「ん……」と一言こぼし両手を広げた。 「……ん?」 「竜太? ほら、ギュってしてよ。充電させて」  玄関に立ったままの周さんは少し口を尖らせて僕のハグを待っている。靴も脱がずに充電とか言って、本当は僕の機嫌を治すためのハグだ。少しは罪悪感でもあるのだろうか。僕は不満を隠すことなく無言で周さんの元に近寄った。 「ごめんな、竜太」 「……なにが“ごめん“なんですか?」 「いや、あれだ……連絡できてなかったし? うん……」  周さんは僕の機嫌が悪い理由なんて心当たりがないのだろう。連絡できてなかったと言ってるけど、仕事で忙しかった周さんにとってその期間はさほど長い時間に感じていないのだと思う。ほんと、僕だけ周さんのことばかり考えてて馬鹿みたいだ。  ああ、わかってる。これじゃあ面倒臭い恋人だと言われてもしょうがない。拗ねたままの僕はなにも言えずに周さんの腕に抱かれてるだけ。周さんがせっかくごめんと言ってくれてるんだから僕だって素直に許してあげればいいだけのことなのに、なんで今日に限って素直になれないんだろうな。久しぶりに会えたというのに。    情けない──  部屋に入ってきてからも周さんは僕の様子を伺っているみたいに見えた。そんな周さんに申し訳ないと思う反面、僕のことを気遣い、気を揉ませているという事実に喜んでしまっている自分もいる。ほんと我ながら性格が悪い。 「ああ、周さん何か食べます? 簡単なものだったら冷蔵庫に入ってるものですぐに作りますよ」 「んにゃ、大丈夫、ん、あ……食ってきたから」  僕から目を逸らし断る周さんがますます気まずそうに見え、思わず「は? 誰かと食事でもしてきたんですか?」なんて聞いてしまった。  周さんが誰と食事をしようが、一人でだろうが、いつどこでなにを食べようかなんてどうでもいいこと。いちいち聞くことでもないのは重々承知なのに、なんで僕はこんなことを棘のある言い方で聞いてしまったのだろう。 「メンバーと……ちょっと軽く飯を、な」  今までなら「メンバー」なんて言い方はせず「圭さん達と」とか名前を言うくせに、わざわざそんな言い方をした周さんのわかりやすすぎる表情から、相手が望君だとすぐにわかってしまった。周さんと望君が犬猿の仲だと知っている僕に対しての周さんなりの変な気遣いだ。やっぱりイライラしてしまう。 「僕、明日も仕事なんで先寝ますね」  シャワーを浴びると言う周さんの言葉を遮るように僕は言い、そそくさと寝室に入った。  これ以上周さんの顔を見てられない。否、周さんにこんな顔を見せたくなかった。

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