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第2話

 小焼を見送ってから、スマホで小焼の母ちゃん――アンチェさんにメッセージを送る。日本語でも大丈夫だと思うけど、こういう時は英語で送ったほうが良いはずだ。小焼もたまに英語で伝えたほうがわかってくれる時があるし、母国語がアッチのだとアッチに合わせておいたほうが良い。  ドレスと式場についての連絡を終わらせて、おれは左手の薬指を眺める。リングがキラキラ光って見える。えへへ、見てるだけで幸せな気持ちになれる。今なら空も飛べそうなくらいに体が軽いや。  ふゆはリングを見て「おめでとう!」って喜んでたけど、両親は正直ちょっとビミョーな顔してた。それもそっか。おれが小焼のことを好きなことを知ってても、本当にそういう意味で好きだとはわかってても理解できてないんだ。男同士でセックスしてるってことも理解できないし、変だと思ってるはずだ。……結婚式風の撮影だけど、おれにとっては本当の結婚式と変わらない。だって、小焼側の両親はおれと小焼が結婚するとしても賛成してくれるし、認めてくれると思う。でも、おれの両親は……反対しそうだ。男同士でなんて、って。  大丈夫。いつかわかってくれる。わかってくれるはずだから、世間も変わってきた。同性愛者についてもトランスジェンダーについても、無性別についても、理解が深まってきてるはずだから……、しっかりしないと。  スマホが震える。アンチェさんからメッセージが返ってきた。日本語だ。  あれ? 日本語で送って良かったの? そう思ったら、よく見たらメッセージを書いているのは、小焼の父ちゃん――宗次郎(そうじろう)さんのようだ。おれのことを考えて代筆してくれてるらしい。優しいけど、おれ、一応英語できるようになりましたよぉとは言えないや。  要約すると進展があったら連絡するってことらしい。次はデザイン画じゃなくて、仮縫いの終わったドレスの写真が送られてくるんだろうなぁ……。楽しみ。  おれがウェディングドレスを着ることは決定事項だから、ふゆにそれを言ったら「絶対似合うじゃん!」って喜んでくれてた。あいつはネタが貰えるから喜んでるのか、おれが小焼と結婚式できるから喜んでんのかどっちなんだろ。両方かな。ふゆぐらいだもんな、おれの気持ちをそれなりにわかってんの。  ゼミ室には相も変わらずおれだけだ。みんなそろそろ戻ってくると思ったんだけど、どういうことだかまだ戻ってこない。各々のパソコン横に貼ってあるスケジュールを確認する。あ、次も講義だったのか。おれだけ暇してるようになっちまってる。  おれのパソコンのデスクトップ画面は、おれと小焼のツーショット。いつかの記録会で小焼がすごい記録を出した時の記念写真。おれはダブルピースだけど、小焼はいつもの仏頂面。笑顔の写真を見たことはない。小焼の笑顔の写真ほしいなぁ。笑ってほしい。くすぐっても怒って殴ってくるから笑顔を滅多に見れない。笑わないってわけじゃねぇんだけど、一瞬だから、その一瞬を目に焼き付けないといけなくなる。  今度結婚式の写真撮影の時は笑ってくれっかな。さすがに仏頂面の写真を新作として発表しないと思うし……。  そんなことを考えつつ、おれはインターネットに接続する。結婚式をしたら、次は新婚旅行に行きたいなぁって。小焼はどういうところが好きかな。人が少ないところのほうが良いだろうから、二人っきりでのんびりできるような……。そういえば、式場は山奥に決めたんだった。あそこに行くのにも宿泊する必要があるし、何かないかなぁ。  ぽちぽち、クリックして画面移動を繰り返す。温泉かぁ、良さそう。温泉なら小焼が一番苦手とする騒がしいやつもいないはずだ。いてもおじいちゃんおばあちゃんな気がする! よし、小焼に温泉に行こうって言おう!

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