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第10話
小焼が一緒に住もうって言ってくれて嬉しい! 今日はとても良い日だ!
丁寧に洗ったシーツを洗濯機に放り込んでスイッチオン! ついでにおれの服も洗うことになったから、おれは今現在小焼の服を借りている。どの服を着てもワンピースになるのがちょっと悔しい。彼シャツを着た彼女ってこんな感じだろうけど、おれがロンTでワンピースになっても小焼はどうとも思わないんだろうなぁ。
部屋に戻って、ベッドに新しいシーツを敷く。おれが一生懸命広げていたら、後ろで小焼が「しわが寄っている」だとか「もっとピンと張れ」だとか言う。できてるつもりなんだけど、つもりじゃ駄目なんだよな。きっちりしてやんないと、小焼が不機嫌になっちまう。
「いでっ! いきなり尻叩くなよ! おれ、ぱんつはいてないんだからな!」
「ぱんつはいてようがはいてなかろうが、一緒でしょうが」
「いーや! ぱんつの分は痛みが和らぐはずだ! って、痛い痛い! 何でいきなり尻叩くんだよ!?」
「あまりにも綺麗にシーツを敷けないからですよ」
つまり、お仕置きらしい。そのお仕置きがほとんどご褒美になっちまうことを小焼はわかってんのかな……。なんというか、尻を叩かれる度に、ちょっと気持ち良い。そんなこと言ったらまた「変態」って言われて罵られるんだろうなぁ。でもその罵りさえもご褒美になっちまうから、どうしようもない変態だ、おれ。
「ぴぇっ! 痛いってば!」
「夏樹の尻って叩きやすいんですよね。もっと叩いて良いですか?」
「その許可の取り方は何だよ!? ド変態じゃねぇか!」
「そのド変態に叩かれて興奮するお前はもっと変態ということになりますが?」
「ひっ、ちょっ、いだっ! 痛いってぇ! 痛いぃ!」
おれ、まだ叩いて良いとも言ってないのに!
小焼はベッドに座って、四つん這いのおれをホールドして、尻を叩く。目に涙が溜まってきて視界が滲む。これ、やばいって。痛いのに気持ち良くて、やばい。
「小焼っ! ちょっとタンマ! ストップ! タイム! またシーツ汚しちまう!」
「……その自己申告は大事ですね。もうやめましょうか」
解放してくれたけど、尻が熱い。けっこうな回数をぶっ叩かれたと思う。あやうく失禁しそうになったから、止めてくれて良かった。
たまにこういう加虐嗜好が出るけど、おれ以外には絶対にしてほしくない。下手したら怪我させるだろうし、絶対距離を取られるに決まってんだ。おれぐらいしか小焼の理不尽な暴力に耐えられないと思うから、おれこそベストパートナーってわけだ。
「ひぁあっ! 小焼っ! 急に何処触ってんだよ!?」
「ふとももです」
「いや、教えて欲しいわけじゃねぇから……。急に股間に手突っ込んで撫でられたらビビるから。あと、勃つだろ!」
「叩かれてる時点で勃ってるんじゃないんですか?」
「それはまあ、そうだけど……。いやいや、そうじゃなくて! 急にどうした?」
「夏樹のふとももって、ふかふかしてて触り心地が良いんですよね。尻もほど良いやわらかさですし」
「つまり、おれの魅力を再確認してるってことだな!」
「は?」
「睨むな睨むな!」
「睨んでない。普通です」
そうは言っても赤い瞳が少し怖い。綺麗すぎるから怖いんだ。もうちょっと茶色だったらなんとも思わなかっただろうけど、小焼の目は血のような赤色で、怖いくらいに美しい。だから、睨まれたら怖い。睨んでなくてもドキッとしちまう。
「あと、おれ以外を叩くなよ。事件になっちまうぞ」
「それはわかってます。そもそも、夏樹ぐらいしか私の傍にいませんし……」
少し淋しそうに言うから、胸がぎゅっとなった。こういうところが可愛く見えちまう。本当は優しくて淋しがり屋だってのに、うっかり手が出ちまうから、周りから人が去って行く。そりゃ一度叩かれたら怖いだろうけど、小焼だって悪気があってやってんじゃないから、許してやってほしい。
普段はほとんど無表情だってのに、ほんの少し淋しそうだったから、おれは小焼の頬に手を添えて、触れるだけのキスをした。
「急に何ですか?」
「んー。キスしたくなった! もっとして良いか?」
「……別に」
小焼様って感じだな。
嫌がってるわけじゃないから、もっかいキスする。ちゅっ、ちゅっと触れるだけのキスを繰り返した。たまにはこういうのも良いと思う。舌絡ませてがっつり深いやつも好きだけど、小鳥がついばんでるようなキスも気持ち良い。
「しつこいですよ」
「わりぃわりぃ」
「そういえば、母からメッセージが届いてましたよ」
「おっ。そっか、確認する!」
自分のスマホを取って確認する。確かに小焼の母ちゃんからメッセージが届いていた。英語だ。代筆じゃなくなった。
「読みましょうか?」
「いや、良いよ。自分で読むから…………、やっぱり読んでくれ」
小焼に読ませた方が早いってのもあるけど、単に頭が回らなくなってきた。だって、すげぇ長いから。
きっと結婚式の打ち合わせだから長い文章になってるんだろうけど、すごい長い。いくら英語がわかるって言ってもけっこう大変だ。
小焼はおれのスマホを持って、真剣な表情でスクロールしている。
「どういう内容だった?」
「愛の営みに便利なローションを送ったから受け取ってって書いてますよ」
「お、おう……。相変わらずオープンな母ちゃんだな。他には?」
「久しぶりにセフレと三日三晩乱交パーティーをしたと」
「そういうのしか書いてねぇの!?」
「私のことをよろしくとは書いてます」
「お、おう……。結婚式の話じゃねぇのな」
「そうですね。だいたいセックスの話です。いつものことですよ」
「それがいつものことになるのってどうなんだよ」
小焼としては日常だけど、おれにとっては非日常だ。そんなにシモの話をみんなしたがらない。国民性なのかもしれない。だけど、アンチェさんはオープン過ぎるんだよな。
小焼はおれにスマホを返してベッドに寝転がった。
「返信しておいたので、寝ます」
「あ、ああ。ありがと……。夕飯食わないのか?」
「今は腹いっぱいなので起きてからにします。『サイド』」
「あーい」
スマホを置いて小焼の横に寝転がる。ぎゅっと抱き締められた。どうやら抱き枕にされるようだ。
小焼の香りがいっぱいして、体がほかほかしてくる。幸せだなぁ。
それにしても返信しておいたって、何返したんだよ。おれのスマホで。
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