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第11話
目が覚めた時には部屋は真っ暗だった。そんなに長く寝たつもりもないが、日が短くなってきているからか。
夏樹はベッドにいなかった。寝相が悪いやつではないので落ちたわけではないはずだ。それなら何処に行った……?
ここで腹の虫が鳴く。腹が減ったな……。
「小焼ぇ! レンジでイカあっためたら爆発した!」
「何やってんですか」
ドアが開いたと思えば、これだ。頬を引っ張りながらワケを聞いてやれば、どうやら私に何か作ろうと考えたらしい。キッチンには立つなと言ったのに。
「お前はキッチンを滅茶苦茶にするから入るなと言ったでしょうが」
「うぅ、ごめん……。おれもなにか作れるほうが良いと思ってぇ」
「だからって毎度失敗されては困ります。食材がもったいないですし。私の言うことが聞けないなら出て行ってください」
「一緒に住もうって言って3時間で追い出されるおれ悲しいー! わかったぁ。もう二度とやんないから許して」
「二度とやらないと言って何度もやってることがけっこうありますけど?」
「ぴぇっ!」
夏樹は小さくジャンプしてブルブル震えている。怯えた子犬のようで可愛らしいが、あんまり言うと気に病むだろうから、このぐらいで許してやろう。
さて、キッチンに向かえば、確かにレンジの窓にイカが張り付いていた。
「大爆発してますね」
「『レンジでかんたん! イカとセロリのバター醤油』ってレシピがあったから、これならおれでも作れると思って……。爆発したけど」
「どうせ皮に隠し包丁も入れずにチンしたんでしょう」
「え、何かしねぇと駄目だったのか?」
「当然です。イカは水分が多いですから……って、お前、栄養士免許持ってるならわかるんじゃないですか?」
「免許は単位取ったら貰えるし、座学は点数良かったからさ。実習はボロボロだったけどな!」
前もこの話を聞いたような気もするな。
夏樹にもできる料理も追々教えることにして、まずは爆発したイカを回収しておくか。
「で、何作るって言ってました?」
「イカとセロリのバター醤油! これ、レシピな」
夏樹のスマホを見せてもらう。
……材料からして異なっているんだが、この際そこは気にしないでおくか。ここで使うイカは冷凍の輪切りのものだが、夏樹が勝手に爆破したイカは刺身用のイカだ。私が明日にでも食べようとおろしたもの。これを言うとまたしばらくしょげるから黙っておこう。
レンジから爆発したイカの入ったボウルを回収する。イカの香りしかしないが……。
「夏樹。これって調味料は?」
「え、入れたはずだけどなぁ」
「セロリが入ってないのは見てわかりますが……」
レシピを読まずに勘で動いたなこいつ。
どうして料理が壊滅的にできないくせに変なアレンジを加えようとするんだ。これだから初心者は困る。……夏樹の場合は初心者と言えないような資格を持ってるんだが。
もう別の料理にするか。
セロリを野菜室に片づけて、代わりに小ねぎを取り出す。ついでにコチュジャンも出しておいた。
夏樹が横にずっといるので少し邪魔だ。
「夏樹。『おすわり』『待て』」
「おう! わかった!」
椅子に座って待つように言ったらすぐに実行する。本当に犬のようなやつだな。
フライパンにごま油を熱して、夏樹が爆破させたイカを加え、強火で炒める。既に熱は通っているような気もするんだが、変に生臭いのは嫌だ。
色が変わってきたところで、醤油、みりん、コチュジャン、砂糖を加えて、炒めていく。水気が多く出てくるので、強火のまま炒める。
水気が少なくなったところで火を止め、仕上げに切った小ねぎをかけて完成。皿に盛りつけて、夏樹の前に置いた。
「すっげぇ! 美味しそう!」
「夏樹は辛いのが好きでしょうから、お好みで七味唐辛子でもかけてください」
「おれの好み知っててくれて嬉しい!」
「知ってますからいちいち感動しないでください」
にこーっと音が鳴りそうなほどに笑うので、頭を撫でておいた。
汁物はインスタントの玉子スープで十分だろう。冷蔵庫から漬物も出して、冷やしたままになっていたビールも出した。
「ビール飲むのか?」
「飲まないまま置いておくのももったいないですし。夏樹も飲むでしょ?」
「おう! 飲む!」
と言っても、夏樹は酒に弱いから、缶ビール1本でも酔う。半分は私が飲むか。グラスで出せば良いだろうし。
「『よし』」
「わーい! いただきまーす! カンパーイ!」
「何に乾杯してるんですか……」
「おれと小焼の同棲にカンパーイ!」
「もう酔ってます?」
「まだ飲んでねぇよ!」
楽しそうで良いな。
同棲に乾杯と言っているが、まだ実家で何も話してないはずだ。
本当に大丈夫か?
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