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第13話

 日課のジョギングに出かける。夏樹は上機嫌だったので、しばらく大丈夫そうだろう。少し油断した隙にメンタルブレイクするやつなので、気にしておかないといけない。  朝に公園には犬の散歩連れが多い。どの犬も可愛いもんだが、うちの犬が一番可愛いと思う。夏樹は人間であって犬ではないんだが、忠犬と言っても良いぐらいだと思う。たまにコマンドを無視するから忠犬ではないか?  お手も待てもできるのに、性欲だけはどうにもできないらしい。他のコマンドは完璧にこなせるから、躾が足りないのか。射精管理でもしてみるか……? 自慰するなって言えば、夏樹はきちんと守るだろうか? 爆発した時の反動が全て私の身にふりかかるのはどうかと思う。 「小焼ちゃんおはよー!」 「おはようございます」  夏樹の妹・ふゆが黒い豆柴犬の散歩をさせていた。夏樹によく似た犬だ。名前は確か、まめたのはず。まめたは寒いというのに舌を出してはっはと息を吐いていた。くるんと巻いた尻尾を振っているので、喜んでいるんだろ思う。しゃがんで撫でてやればもっと撫でろと擦りついてくる。そんなところまで夏樹に似なくて良い。 「まめたは小焼ちゃんのことが大好きだねー。お兄ちゃんみたい!」 「夏樹にそっくりですよ、この子」 「お兄ちゃんも小焼ちゃんにおしっこひっかけるの?」 「……妹にそんなに変態だと思われてるんですか、あいつ」 「冗談だって! いくらお兄ちゃんでも、小焼ちゃんにそんなことしないでしょ」  さすがに小便をかけられたことはなかったはずだ。よく精液はぶっかけられているが……、あれは我慢しきれないんだったか、どうだったか忘れた。  ふゆにはそういう性的な話をするなと言われているので、どうにか話題を変えたいところだが、そもそも私にはふゆと会話できるようなネタが無い。 「そういえば、お兄ちゃんと小焼ちゃんって結婚式やるんだよね?」 「やりますね。まだ先の話になりますが」 「小焼ちゃんがウェディングドレス着るの?」 「それはどんな悪夢ですか」 「いやぁ、一応聞いておかないと。お兄ちゃんが着るってのわかってても、もしかしたら小焼ちゃんもドレス着たいかなぁって」 「私には似合いませんよ。だいいち、母のブランドの宣伝ついでに結婚式をやるので本当の式ではありませんし……」  そういう風な撮影であって、結婚式ごっこと言われるもの。だから、そこまで深く考える必要も無い……はずなんだ。本当は。夏樹にしたら、新婚だとか同棲だとか色々考えることがあるようだが。  ふゆとそこそこに話してから、ジョギングに戻る。道中に落ちているゴミを拾いながら走ると、屈伸運動も入って良いかもしれないし、清掃ボランティアに感謝されるので、気分が良い。  家に帰ると首輪を着けた夏樹がいた。 「本当に首輪つけてるんですね。ただいま」 「おまえが着けろって言ったんだろ。おかえり。ごはんにする? パンにする? それとも、パ・ス・タ?」 「急に何言ってるんですか。パンを焼きますけど」 「おまえこういうの好きかなって思って言ったんだよ。やっぱり普通のやつが良かったか?」 「お前って言ってもらえると思ってるんですか? 変態」 「あはは、急に罵るなって、興奮しちまうだろ」 「そこで興奮するなんて変態過ぎますよ」 「おれにかまってくれるだけで嬉しいんだって」 「かまってちゃんは面倒臭いから嫌です。自傷だけは勘弁してください」 「前もそういうこと聞いたなぁ」  そう言いつつ、夏樹は笑っていた。

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