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第14話

 首輪着けろって言うから、きちんと着けて待ったから小焼は少し上機嫌そうだ。他のやつには違いがわからないと思うけど、おれには小焼の機嫌が良い時と悪い時の違いがしっかりわかる! 誇っても良いと思う!  小焼がジョギングに行ってる間に掃除をしておいたから、フローリングはピカピカだ。拭き掃除には自信がある。別に地べたを這いつくばるのが好きとかそんなんじゃねぇけど、雑巾がけは得意なほうだ。それだけは小焼も昔褒めてくれた。料理についてはキッチンの出禁くらっちまったから、何も作れねぇし、小焼が喜ぶようなものを一度も作れた試しが無いから、そのままのほうが良いかもしれない。もう少しだけ練習しといたほうが良いかもしれないけど、家に戻ってキッチンを爆破するとふゆが怒るし、母ちゃんだって叱ってくる。  おれがテーブルを拭いている間に朝食ができたようだ。「運べ」って言われたので、受け取りに向かう。本日も朝から健康的な食卓だ。パンとスープとサラダなんて、忙しい朝に準備してらんねぇと思う。 「『待て』」 「あい!」  急にコマンドを言われたので、背筋がピンと伸びる。待てと言われなくても勝手に食べ始めることはねぇんだけど、どうしたんだ? まさか、おれ、また、犬のエサ入れで食事するはめに……ならなさそうだ。おれの前にもパンとスープとサラダが置かれた。 「『よし』」 「な、なぁ、何で『待て』って言ったんだ?」 「特に意味は無いんですが、きちんと待つんですね?」 「そりゃあ、言われたら待つに決まってんだろ。おれ、おまえに言っただろ!」 「そうでしたっけ? スープが冷める前に召し上がれ」 「いただきまーす!」  手を合わせて挨拶してからフォークを手に取る。何故か箸じゃなくてフォークを出されていた。小焼は箸を使ってるってのに。  おれ、ぼろぼろこぼす時があるから、フォークのほうが食べやすいってのもあっかな。  白い湯気のたつスープを飲む。コンソメスープだった。角切りにされたにんじんがやわらかくて、ほんのり甘いし、たまねぎもしっとりしていて、とろけるような舌触りだった。ころころのジャガイモがほくほくしてるし、なんかわかんねぇ豆も美味しい。やっぱり小焼の作るものは何でも美味い!  今日はロールパンだ。いつも食パンだけど、今日はまんまるでくるくるのちょっぴり可愛い形のやつ。芋虫って言って、叱られたこともあったっけなぁ。だって、芋虫のような形してんだもん。芋虫も可愛いと思うけど、小焼的には嫌だったらしい。けどこいつ、「カブトムシの幼虫はむちむちして美味しい」って言ってたような気がする。昆虫も食べるくらいの食いしん坊の小焼は、かなり美食研究しているような気がする。  サラダはレタスとブロッコリースプラウトとパプリカとたまねぎ。ごまドレッシングがかかっていて、芳ばしい。とても良い香りがするんだ。 「このドレッシングって小焼の手作りか?」 「よくわかりましたね?」 「まぁな! すっごく美味しいからさ!」 「口に合ったなら嬉しいです」  テキトーに言っただけなんだけど、手作りで合ってて良かった。小焼も嬉しそうにしてっし、おれも嬉しくなってくる。これなら野菜嫌いの子でもパクパク食べられそうなくらいに美味しいドレッシングだった。  食事が終わって小休憩。  朝のテレビはどれも平和なニュースが流れていた。天気も快晴で過ごしやすい気候らしい。 「なあ、何処か行くか?」 「何処かって何処ですか? ドッグランなら喜んでいきます」 「おまえ、おれを走らせようとしてねぇ?」 「ドッグランですし」 「おれは犬じゃねぇから!」 「大丈夫ですよ。夏樹が全裸で首輪をつけて四つ足で走ってたら警察が来るだけなんで、私は他人を決め込みます」 「大丈夫じゃねぇから! 変質者で逮捕されっから!」  たまにどんでもない発言すっけど、いつもどおりだから良いや。そんだけおれへの愛情が溢れてやまないってことだもんな。おれが喜ぶと思って一生懸命考えたことが、ちょっと過激だっただけだよな。限度をわかってねぇんだよなぁ。 「同棲するって、実家に話しに行かないで良いんですか?」 「えー? あー……、おれが小焼ん家に住み着いてるだけだし、そのままでも大丈夫な気もすんだけど……」  おれが外で泊まるってなったら、自動的に小焼の家だと思われてるし、いちいち実家で報告する必要は……あるんだよな。おれと小焼の関係を親にきちんと認めてもらわねぇといけないし。でも、どう話したもんか。「これから小焼の家に住む!」って言っても、二つ返事で終わりそうだ。仲良しねぇってぐらいに。ふゆなら理解してくれるし、萌え死ぬだろうけど、どうなんだか……。

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