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第17話

 とてもサービスの良い店だ。炊飯器を置いていったくらいなので、これだけ食べても許されるということだ。他の店なら「ご遠慮ください」と言うやつがいるのに、ここは言われないし、更に食べても良い。リピートしても良いな。  夏樹が網の上に氷を置いて遊び始めたので、腹がいっぱいになったんだと思う。ホルモンでも焼けば喜びそうだ。 「夏樹。ホルモンを注文してください」 「あいあーい。すみませーん!」  夏樹は店員を呼び止め、ホルモンとカルビを頼んでいた。腹いっぱいになっていると思ったが、まだ食べるのか? 「まだ食べるんですか?」 「それはおれのセリフだよ。おまえが食べそうだからついでにカルビ頼んどいたんだ。まだまだ食べる気だろ?」 「今で腹五分目ぐらいです」 「あはは、まあ、いっぱい食ってくれよ。おれ、おまえが食べてる姿見るの好きなんだ」 「食べてなくても好きでしょ?」 「おう! そりゃ好き! 大好き! あっつい!」 「何してんですか……」  相変わらず、少し抜けているところがあるが、可愛いやつだ。さすがに火の上に手をかざすのはバカだと思ったが。  ホルモンが運ばれてきたので、網に乗せる。脂身が多いので、すぐに火柱が立った。夏樹は嬉しそうに目を輝かせている。やっぱりこういうのが好きなタイプだな。  それからすぐに氷を乗せ、消火して遊んでいた。私がホルモンを焼く度に火柱が立つので、楽しそうにしている。子どもか。 「なぁ小焼。これ危なくねぇか?」 「脂を焼いているようなもんなので、どうしてもこうなるんですよ。楽しんでるから良いでしょ?」 「楽しいけど、危ねぇよ。おれの前髪チリチリになったぞ」 「近付きすぎです」 「いやぁ、小焼を近くで見たくってさ」 「何言ってんだか……」  悪い気はしないが、特別良い気もしない。  人懐こい笑みを浮かべてずっとこちらを見られるのも気になる。可愛いとは思うが、見られ続けるのも気に障る。だからって何か注意したところで、今度は見なくなる可能性もあるので、夏樹の扱いはビミョウに難しい。  炊飯器も空になり、腹もいっぱいになった。少し休憩して支払いに向かう。  夏樹が奢ってくれるはずなので、先に店を出る。肌寒い風が吹いている。 「ひゃー、外寒いなぁ」 「そうですね。夏樹の近くにいると妙に暖かいですが」 「やっぱりおれの人柄の良さが出てるんだな」 「はぁ?」 「睨むな睨むな」 「睨んでませんよ」  気にしないでおくか。  夏樹は私の腕にぎゅっと絡んできた。こういうのは女がやるようなもんだと思うが、温かいのでちょうど良い。暖が取れて良いなこいつ。 「えへへー。こうしてたらカップルみてぇだな」 「カップルですけど」 「そうそう! そうなんだけどな! 男女でやりがちだろ?」 「やりがちではないと思いますよ。白い目で見られると思いますし」 「マジレスやめてくれぇ。はぁー、これあったけぇな。小焼の筋肉は発熱してくれてんのかな」 「何言ってんだかわかりませんけど、歩きづらいからもう少し離れるかいっそ担がれてください」  夏樹は嬉しそうに破顔しながら「寒いから嫌だぁ」と言った。  私は彼の襟首を掴んで、無理矢理剥がした。

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