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第18話

 小焼は腹いっぱいになったから機嫌が良さそうだ。腹ペコのこいつは近寄るのも怖くなるくらいだって皆言うけど、おれはそう思わない。だって、こいつ、性欲と食欲がいっしょくたになってるようなやつだから、腹ペコだとムラムラしてるってことだ。  ……って考えたらやっぱり怖いかもしれねぇな。性的に食べられるか物理的に食べられるかになっちまいそうだもん。  だけど、小焼はおれにちんこ突っ込まれるほうだから、食べられるというか食べるというか? おれが食ってるってことになんのか? ああもう! どうでもいいや!  すっかり冬支度の始まった街はあちこちでクリスマスの準備を始めている。気が早い。まだ秋のようなもんだぞ。暦の上では冬なのか? わかんなくなってきた。今わかることは、小焼が立ち止まったこと。 「何かあったか?」 「推しがいる」 「へ?」  おれの身長だと見えないが、小焼の身長なら何か見えているのかもしれない。背伸びをしてもまったく見えない。人がいっぱいいるなぁとしか言えないくらいに見えない。これはこれで悔しさがマックスハートって感じだってのに、小焼はおれをひょいっと抱っこした。 「は、恥ずかしい! 恥ずかしいからおろしてくれぇ!」 「向こう見てください」  恥ずかしさで勃っちまうからやめてほしい。とりあえず、冷静に小焼が何を言っているかを確認しよう。冷静に! 周りの視線が集まっててゾクゾクする! あれだけヤッてもドキドキするもんはドキドキするし、ゾクゾクするもんはゾクゾクするんだ。体の中心に熱が集まってくることを冷静に対処しねぇと!  小焼の推しというと、アイドルユニットのNano♡Yanoだ。巴乃(ともえの)メイと巴乃レイのふたりぐみ。妹がどちらともお友達になっているので、おれはメイちゃんの本名も知っているが、小焼はどうなんだか。まあ、どっちでもいいか。  どうやら何かイベントをやっているようで、ショップの前に人が集まっているようだ。  ようやく下ろしてくれたが、おれのエクスカリバーはギリギリなところだった。抜けるとこだから、こういうのは控えめにしてもらいてぇな。 「わかりました?」 「わかったよ。だけどさ、こういうことされると興奮するからやめてくれよ!」 「……夏樹って青姦好きですか?」 「急に何だ? したいってなら、喜んでするぞ!」 「しませんよ。聞いただけです」  この時期に青姦すると寒くてちんこが凍っちまいそうな気がするけど、興奮してっから、関係ねぇかな。だけど、チン冷却して抑えるくらいだもんなぁ。寒いとやっぱり縮こまるよなぁ。  小焼は何を言うでもなくおれの腕を掴んで人ごみを掻き分けて進んで行く。推しに会いに行くのな。イベントなら何か買わないと近寄れない気がするぞ。  何かと思えば、新しいアルバムのリリース記念のイベントだったようだ。サインペンを持ったメイレイの二人が並んでいる。人はそこそこいるけれど、知名度はまだまだこれからって感じだから、全く知らない人が「可愛い女の子がいる」と集まってきているようだ。あと、メイちゃんはセクシー女優だからそっちのファンも来ているようだな。レイちゃんは恥ずかしそうに俯いているので場慣れしていないのがわかって可愛い。赤面した顔がソウキュートって感じ! 「初回特別盤を買えばサインと握手してくれるみたいだぞ」 「私、持ってるんですよね。フラゲしたので」 「おー、そんじゃ、おれが買おうか。持ってねぇし」 「それでは100枚お願いします」 「おひとり様2枚までだ」 「チッ」  今わかりやすく舌打ちしたし、爪を噛もうとしたので、慌てて手を掴んで止めてやる。イライラすると爪を噛むのが悪い癖だな。  列に並んで、特別盤を2枚購入した。すぐに隣のイベントスペースという名のメイレイが待機しているブースに案内される。小焼は付き添うだけかと思いきや、きちんと2枚購入していた。 「わー。なちゅちゃんなの! お迎えありがとうなの! 握手あくしゅー!」 「えへへ、ありがとー!」 「わ、わわわ、お、お迎え、ありがとうございますやの」 「俯かないでこっち向いて言ってください」 「ご、ごめんなさいやの。うぅ、ありがとうございますやの……」  推しに対しての対応が塩対応に見えるんだけど、大丈夫かこのマッチョ野郎。  上手く表現できないだけでめちゃくちゃ嬉しいんだとは思う。ちょっとだけ笑ってるのがわかる。メイレイもニコニコして対応してくれるし、他の人よりも丁寧にしてくれた気がする。  だけど、なちゅちゃん呼びは女装してない時は恥ずかしいな!

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