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第19話
推しにも会えたし、腹も膨れたので気分が良い。
夏樹も私の横で嬉しそうにニコニコしている。だいたい人懐こい笑みを浮かべているやつだから、笑顔が消えた時はゾッとするものだ。ヤッてる時に妙な色気を感じるのは、これが原因なのかもしれないな。
子犬のようにくっついて歩いてくるので少し微笑ましくなる。夏樹が近くにいると暖かいから、寒い時にはちょうど良い。
「次は何処に行く?」
「夏樹が行きたいところはないんですか?」
「おれは、小焼が行きたいところに行きたい」
「……それ、自分の意見が無いやつですよ。嫌いです」
「小焼に嫌いって言われた……!」
元から八の字を描いているような眉が更に困ったように下がって見えた。ひとつひとつの仕草が面白いので色々反応を見たくもなるが、あまりいじると拗ねてしまうだろうから控えておこう。
それに、夏樹にまで離れられたら……私は……。
こいつなら、側にいてくれるとは思うが、それは私が勝手に思っていること。巨乳の女が歩いていたらそっちに視線がいくので、離れる可能性もある。
「巨乳がいたら見る癖やめたほうが良いですよ。不審者です」
「えっ、だ、だって、おっぱいおっきい子がいたら誰でも見るだろ!」
「誰でもではないですよ。私は見ませんし」
「えー……、おっきいおっぱい見ないのかぁ。そうだなぁ、小焼のおっぱいだっておっきいのに見るやついないもんな」
「好き好んで男の胸を見ないと思います」
あと、胸を露出しているわけでもないから見ないと思う。
胸の谷間が見えるセックスアピールの強い女なら見てやったほうが良いのかもしれないが、見せてもいない女の胸まで見ているから、夏樹の巨乳好きはどうにかしてやったほうが良いんじゃないかと思う。
先程のNano♡Yanoのサイン会でも、二人の胸を見ていたくらいだ。巴乃メイはセクシー女優だからそういう視線に慣れているかもしれないが、巴乃レイは現役の女子高生で、夏樹の妹の友達でもあるんだから、ガン見はどうかと思った。
特に行先も決めずに繁華街を歩いて行く。そういえば、そろそろローションが切れそうだった。残りを見ていないが、夏樹がけっこう大量に使うのですぐに減る。ゴムだってすぐに使い切る。いっそ業務用を買うべきか? それはそれでヤりまくってるようで気恥ずかしいな……。
「夏樹。アダルトショップ行きましょう」
「え。えっちなオモチャ買うのか?」
「欲しいなら買いますけど」
「どういうのあるか楽しみだな!」
何処でも嬉しそうな反応はしそうだが、道の真ん中でこれだとド変態としか思えないな。全裸で散歩をさせたら逮捕されると思うが、夏樹なら興奮してくれるだろうか。さっき抱き上げてやった時も興奮していたように思うし……。見られるだけで興奮するなら、視姦してやるか。しょっちゅうしているような気もするが。
黒い看板のオトナの雑貨屋に入る。白昼堂々と入るような店でもないかもしれないが、夜には閉店するだろうから、昼にしか実店舗に入れないはずだ。
店の中には防御力が皆無の下着が飾られている。巴乃メイの新作DVDもポップ付きで展示されていた。
「コスプレ衣装もいっぱいあるんだなぁ」
「破きやすそうですね。夏樹着てみますか?」
「えー、前に着たのとは別のが良いなぁ。制服とかどうだ?」
「ノリノリで選ぶな」
夏樹はセーラー服を当てながら言う。鏡で似合うかどうか確認しながら言っているあたりに本気度を感じるが、夏樹ならここの服どれでも似合うと思う。可愛い顔をしているし、小柄だからサイズも合うはずだ。
「スケスケの下着でも着けてみますか?」
「すっげぇスケスケ! おれのエクスカリバーはこれだと隠しきれねぇよ!」
「……言われてみればそうですね。ぼろんっと出そうです」
「だろー? いっそこういうゾウはどうだ?」
「勃起した時に締まりそうじゃないですか? 伸びないでしょ、この布」
「そうだな! おれのちんこがギュウギュウになっちまう!」
エクスカリバーと言ったりちんこと言ったり、どっちで言いたいんだ。いや、ちんこで良い。エクスカリバーだとアーサー王に失礼だろ。
「で、何か買いに来たのか?」
「ローションとゴムを買いにきたんですよ。お前が使い過ぎるから」
「そりゃわりぃ! おれが買うよ!」
「ついでにこれ買いますか?」
SMコーナーに拘束具があったので、夏樹に見せてみる。顔を少し赤らめて首を横に振っていた。
期待に満ちて瞳が潤んでいることに本人は気付いていないのだろうか。
「これよりもオナホでも買っておきますか」
「おれじゃ満足できねぇの?」
「あのー、すみませんお客さまー。他のお客様の迷惑となりますので、もう少し声のボリュームを下げていただけますとー……」
「すみません」
変なところで店員に注意された。
夏樹の声はよく通るので、あまり大声でなくてもうるさく感じたのかもしれない。
なんだか周りに妙な誤解をされているような気もするが、他人だからどうでもいいか。
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