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第25話
あっという間に時間は進み、今日はスタジオでコスプレ撮影会をする日だ。
ベッドから落下している夏樹を拾い上げて、洗面台で寝ぐせをなおしてやる。
どうせこれからウィッグを被るからなおす必要もないかもしれないが、スタジオに辿り着く前までに人と会って彼が「なちゅ」だとバレるとイメージが悪くなる。普段から身の回りに注意してもらいたいところだが、夏樹が素でなちゅだと気付かれることは……あるにはあるが、「仕事でやってる」と割り切って見てもらえるから良いのか。普段から女装をしているようならもっと考えないといけないところだが、夏樹は好きで女装をしているわけではない。ただ、仕事でしているだけ。
「夏樹。もしかして、女装するの嫌ですか?」
「おっ? 急に何の話だ? 別に嫌じゃねぇよ。まあ、おれとしたら可愛いよりもカッコ良くなりたいところだけどな!」
「それなら良いんですが……」
「小焼の気にするようなことはねぇから安心してくれな。あ、でも、一つだけ言うとすれば、やるならもっと可愛くなりてぇな!」
心配するようなことは何一つ無さそうだな。夏樹はノリノリで引き受けて良そうだ。母の押し付けもあったので少し気になっていたが、もう良いか。
朝食を済ませてからスタジオへ移動する。ふゆがいつも使っているのはシェア型のスタジオで絡み撮影はNGだと言っていたが、今日予約したのは完全に貸切のスタジオらしい。そして、アダルト作品の撮影にも使われているところだと言っていた。よくわからないが、まあ、絡み撮影だとかいうものを撮影したいということはなんとなくわかった。
「カメラさんには13時に来てもらうなの。だから、お着替えしてメイクして準備できた人から照明の設定やピン撮影してなの!」
と仕切っているのは、巴乃メイだ。アダルト作品のセクシー女優がここにいるのはなんとも奇妙な気分になるのだが……、ふゆの友達らしい。正確には、けいの相方で友達であるから、ふゆとも友達ということになるのだろうか。友達の友達は友達だとかそういうあれだろうか。私にすれば、友達の友達は赤の他人だが。というか、友と呼んで良い者は私の側にいたか?
「あ、着替えどうしよう。考えてなかったや!」
「おれとコウは後で着替えっから、先に女性陣で済ませてくれよ。その間に必要なセット組んどくからさ」
「さすがなちゅちゃん! おっきな家具とかあたしらじゃ動かせないから、これお願いね。絵コンテ作っておきましたー!」
「おう。任せとけ!」
全員本名を知っていると言っても、ここではコスネームで呼び合うようだ。カメラマンは全く知らない人物だから身バレ防止に必要なことだな。
ふゆに渡された紙を見つつ、家具を移動させておく。夏樹が丸テーブルを移動させているので、私はソファを移動させておいた。
現在の時刻は12時半だ。飲食可能のスタジオらしいので菓子パンをかじっているとシルキーが来た。
「お待たせしましたなの。お着替え終わってるから中に入ってもらっても大丈夫なの。後はうちが準備しておきますなの」
「すっげぇ! シルキーちゃんだ! すげぇな!」
「語彙力が無さ過ぎるぞお前」
「だって、シルキーちゃんだぞ!」
まるでテレビから抜け出してきたかのような素晴らしいクオリティだ。シルキーだけでも目の保養に良いと言うのに、ここにハスキーも加わるのか? と考えている間に来た。
「お待たせしましたやのー!」
「100枚ぐらい写真撮って良いですか?」
「ふぇっ!?」
「コウ、後でいっぱい撮れるから、おれらは先に準備しような」
「そうですね」
小さくてむちむちの女が並んでいると破壊力が凄まじいな。夏樹も小さくてむちむちしているから似たようなものだが。
更衣室に移動する。乱雑に置かれた荷物の中心にふゆがいて、その横にはるがいた。
「おー、こっちはこっちでなんか苦戦してるんだな」
「だって、大型合わせだよ!? 張り切って準備しなくっちゃ! あたし、主人公だし、絶対センターでしょ!?」
「それはそう」
「あたいは準備できたからもう行くよ」
「えー! みんな早いよぉ!」
ふゆ以外の準備は終わったので、撮影準備に入るんだと思う。先程備品の移動は終わらせておいたので、各々自撮りなり何なりするはずだ。私も早く推しの撮影をしたい。その為には早く準備を終わらせないと。
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