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第26話
更衣室の中はけっこう広いはずなのに、おれの妹の荷物で狭く見える。主人公のコスをするからってことでいつもより気合い入れてテーピングを顔に貼り付けてる。シンタローはキリッとした目が特徴的なキャラだから、再現しようと頑張ってんだな。
ふゆのことを見ていないでこっちも準備しねぇとな。13時にはカメラさんが来てくれるって話だったから、13時半には着替えもメイクもばっちり終わらせないと。おれ、ヒロインのチカちゃんだから主人公の次に必要なはずだ。
でも、カメラさん的には現役アイドル二人がやるシルキーハスキーを撮影してるほうが良いかな? あと、すっげぇ乳の再現度が高いダウナーちゃんのセクシーな撮影しててほしい。おれが撮影データ欲しいもん。
小焼の着替えはけっこう早く終わる。警察隊長のベースの衣装は筋肉を強調して見せるようになってるから、腹だしスタイルだ。バッキバキの腹筋がかっこいい。胸筋も良い感じだ。さすがふゆ、小焼のスタイルに合わせて調整して縫ってくれたんだな……。前の衣装よりもタイトな感じになっていてナイスだぜ! と心の中でサムズアップしておく。
「お兄ちゃーん! チーク貸してー!」
「あいあい」
妹がメイク道具忘れてるのちょっと面白いな。どうして兄であるおれが持ってるんだよって言いたくなるところだ。
小焼は着替え終わって片目だけカラコンを入れてぼーっとしている。そういえば、おれがメイクしてやらないと駄目だったや。先に仕上げてやって早く推しのところに行かせてやるか。
「コウ、メイクすっからこっち向いてくれ」
「お願いします」
「任せとけ。おまえを超かっこよくて全員抱ける男にしてやるよ!」
「お兄ちゃんそれ解釈違いー!」
「あいあいわかったわかった」
ふゆは左右逆だって言いたいらしい。まあ、それはそうなんだけどさ……。こうでも言っとかないと、小焼が推しにまで抱かれる感じになっちまうだろ。……メイちゃんの技なら抱かれそうだけどさ。ファン感謝祭的なやつで参加型の撮影があったら応募すんのかな。
「なあ、メイちゃんの作品でさ、素人が参加するやつってあんの?」
「童貞を貰うって作品はありますが、あれは童貞ではなくて男優でしたよ」
妹の横でアダルト作品の話するもんでもないか。小焼はメイちゃんの作品ならなんでも見てんのかな……。
「そういう童貞を貰うってやつじゃなくて、ファンが撮影に参加するようなやつあったら、おまえも応募すっか?」
「私のほうがそこいらの男優より良い身体してますからね」
「……すっげぇ自信だな」
自信がすごい。それは確かにそうなんだけど、ああいうのって自己投影だとかできるように、ちょうどいい体型を維持してるはずだからな……。小焼のようなバキバキの筋肉野郎が見るには筋肉が物足りないのかもな。そういう作品もあるにはありそうだけど、どっちかっていうと女性が見るアダルト作品なんだっけ? メイちゃんはそういう趣向のほうにも出演してるはずだけど。広告見たことあるし。女性監督による女性のためのなんたらってやつ。撮影の仕方も違うんだろうな。
「よし! できた! お兄ちゃんどう? あたしかっこいい?」
「おう。かっこいいぞ。全員抱けそうだ!」
「やった! じゃあ、お先にー!」
いつもより気合いが入っているふゆが更衣室を出て行く。向こうで歓迎する声が聞こえる。良いなぁ、ああいうの。推しが出て来たってドキドキしちまうのわかる。シンタロー推しが今日のメンバーにいるのか知らねぇけど。……はるがそうだったっけか? 違ったっけな?
小焼は元々が美形だから特にメイクする必要も無い気もするんだけど、一応アイラインだとかシャドウとかを入れてメリハリをつけてやる。やべぇな、すっげぇ顔が良いぞ。普段見てっけど、こりゃあ、顔が良い。尊いってこういう時に使うんだな?
「夏樹」
「あいあい。何だ? あと、今は良いけど、ここ出たらなちゅって呼んでくれよ」
「おまえはいつメイクするんですか?」
「お前のメイクが終わったらするんだよ。先に撮影しててくれよ。 自分のスマホで推しの撮影もしたいだろ?」
「尊くて死ぬかもしれない」
「限界オタクすんな。せめて長生きしてくれ。寿命が延びるほうで頼む。死ぬな」
「わかりました」
本当にわかってんのかな……。というか、いつの間にそんな言葉覚えてんだ? ふゆから悪影響もらってんのかな。
メイクが終わったので、「ふゆが暴走しないか見ててくれ」と頼んで、小焼を押し出しておいた。暴走されちゃ困るからな。小焼が暴走しても困るけど。
黄色い歓声が聞こえる。ありゃ完コスってやつだもんな。バエスタにでも載せたら一瞬でバズッちまいそうなくらいに美しいマッチョだぞ。
さて、おれも早く準備して行ってやらねぇと。どちらも暴走しないうちに!
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