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第27話
夏樹に押し出されたので、とりあえずふゆの近くに行ってみた。するとけっこう大きめの声で叫ばれたので耳が痛い。夏樹の妹なだけあって、声がよく通るので、大声を出されると耳が痛くなる。
「うっ、無理。コウちゃんのベース尊い。推しがいる。死んじゃう!」
「なちゅが『死ぬな。生きろ』と言ってましたよ」
「生きる! あたし、ベースと撮影したいもんっ!」
「……はぁ」
早く夏樹に来てもらわないと困るな。ふゆの側にいればなんとかなるかと思ったが、こうやかましくされると耳がやられそうだ。だからと言って、推しの側に行くのも恐れ多い。向こうは向こうで既に到着したカメラマンと撮影を始めている。
「あ、ちょっと待ってなのー! 紹介するなのー! コウくん、こちらが今日のカメラさんで、マユツバさんなの」
「マユツバです。よろしくお願いします! ひゃー、この筋肉自前ですか? すっごい!」
……なんと返せば良いだろうか。とりあえず頭を下げておく。自己紹介をするにも、こういう時独特のルールがあったような気がする。私はまったく覚えていないので、何も言わない。余計なことを言うよりは黙っておいたほうが良いだろう。
それに、黙っておけば、ふゆが勝手に喋ってくれる。
「コウちゃんね、帰国子女だから日本語があんまりわかんないかもだから、許してあげてね!」
「帰国子女なんすかー!? すっごいすねー!」
「は、はぁ……?」
帰国子女であることは間違いないが、日常会話もできるし、読み書きもできる。私は遠回しに煽られているのか?
そうしている間に、「お待たせー!」と言いながら美少女が現れた。いや、夏樹なので美少女ではないのだが、今だけ可愛らしい顔が更に可愛くなっていて、どう見ても女にしか見えない。衣装が骨格をカバーしているので、男だと言われなければわからないはずだ。夏樹が喋らない限り。
「チカちゃん! すっごい可愛い! え? 男の人、ですよね?」
「はい! なちゅって言います! 今日はよろしくお願いします!」
「なちゅちゃんー!? うっそ、ゴスロリブランドの女装モデルさんだよね!? メイちゃん、友達の幅広すぎー!」
「冬夜ちゃんのお兄ちゃんなの」
「お兄ちゃんなのー!?」
と、なにやら盛り上がっている。
全員が着替え終わったということで、改めて自己紹介をすることになった。
「はい! 主催の秋ノ次冬夜です! 頑張って色んな写真撮りましょう! 絡み撮影もしたーい! ご協力よろしくお願いします! はい、次どうぞー!」
「はいなの。副主催の巴乃メイなの。えっちな撮影構図なら、うちに任せてなの! バリバリ指導できるなの! はい、次どうぞー!」
「はいやの。 えっと……巴乃レイやの。えっとえっと……、ウチは……こういう撮影初めてやから……頑張りますやの……。あ、あとで、バエスタに写真あげたいやの。一人ずつ自撮りさせてほしいの……。次どうぞやのー!」
「はい。あたいは春日ってんだ。よろしくね。あたいも店のアカウントに写真載せたいから、協力してやってくんな! あ、格闘系の構図ならあたいに任せてくんなよ! じゃあ、次どうぞ」
「あいあい。おれはなちゅ。こっちは無理矢理巻き込まれたコウだ。おれらはコスプレ初心者だから、至らないところが多いと思うんで、優しくご指導お願いしますー。コウは喋るの苦手だから、何か用があったら、おれか冬夜に言ってくれ。伝えるからさ。そんじゃ、このままカメラさんに挨拶してもらおっか。な、コウ?」
「はい。よろしくお願いします」
なんだか私が喋れないキャラ設定にされてないか? まあ、余計なことを発言をしないで済むならそれで良いが……。
私の自己紹介の時間は省かれたので、カメラ担当が口を開く。
「初めまして! いつもはメイちゃんのグラビア撮影を担当してます。マユツバって言います! 今日は色んな写真を撮れるように張り切りますので、ご指示くださいー! よろしくお願いします!」
「それじゃ、早速だけど集合から撮っていこうねー! 配置はこんな感じで!」
ふゆがスケッチブックを開いて見せてくる。なるほど、わかりやすいな。この位置に立てということか……。
夏樹が隣にいるから落ち着く。ついでにけいも隣にいる。美少女に挟まれている。夏樹は男だから美少女でないんだが、今は美少女だ。メイクというのは恐ろしいな。
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