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第28話

 ふゆが絵コンテを作ってきていたお陰で撮影は順調そうだ。  小焼に日本語喋れない設定を付け加えたことによって、カメラさんに話しかけられる数も減っているから、あいつのメンタルもどうにか持つだろう。変なこと言わなければ良いだけなんだけどな……。本人はどうして喋れないことにされたかを不思議にも思ってなさそうだ。喋らなくて済むならそれで良いと受け入れている。  それにしても……本当に絡み構図撮る気のようだ。ふゆが一生懸命、小焼に抱き着こうとしている。あまりベタベタ触られたくない相手だってわかってるから、極力触れないようにしているとは思うけど、手伝ってやったほうが良いか。 「コウー。大丈夫かー?」 「何がですか? 私よりこっちをどうにかしたほうが良いと思います」 「お兄ちゃーん。あたしのマントのひらみをお願いー!」 「あいあい。ひらみな」  ようするに、マントをひらひらっとさせて躍動感を出したいようだ。  シンベスの撮影をしている間に、シルキーハスキーとダウナーちゃんは向こうで各々のカメラで撮りあいをしていた。あっちはあっちで楽しそうだ。  おれはふゆのマントを掴んで、波を打たせる。カメラさんが合図出してくれっから、そのタイミングでパッと上に投げて、これで良いはずだ。 「いいかんじ! なちゅちゃんって撮影慣れしてるね!」 「えー、まあ、なんとなくわかるっていうか……」 「お兄ちゃん、次、シンチカ撮りたいからこのまま入って―!」 「おう。それは良いけど、あっちは良いのか?」 「大丈夫。メイちゃんがタイムキーパーしてくれてるし! さっきの集合が早めにベストショットできたから、時間に余裕あるよ!」 「そっか。そんじゃ、安心だな」  ふゆが一人でずっと撮られたいやつやってんじゃないかって気になったけど、大丈夫そうだ。  シンチカを撮りたいってことで、小焼にはけてもらう。それはそれで心配だな……。こっちを見て何か訴えているような気がする。 「あ、ベースが空いてるなのー! こっち来てなのー!」 「……はい」  推しに呼ばれたとあっちゃいかないわけにもいかない。  小焼は少し不安と嬉しそうな複雑な表情をして向かっていく。ただ、おれにはそう見えているだけで、他の人が見たら表情変わって見えないんだろうなぁ。きっと、ただの無表情キャラだ。ベースも無表情キャラで良かったや。満面の笑みでお願いしますって言われても、笑えないだろうし、ほんと、よかったよかった。 「お兄ちゃん。早めに終わらせようね!」 「そうだな」 「というわけで、このポーズお願いしまーす!」  ふゆはスケッチブックを見せてくる。けっこう過激なポーズしてる。  おれ、男だぞ? お兄ちゃんだぞ? お兄ちゃんにこんな過激なポーズさせて楽しいのか? と考えたところで、おれは今チカちゃんなので、チカちゃんになりきってやるしかない。  さすがに少し恥ずかしいな……。ちらっと振り向いた小焼が親指をグッと立てていた。おい、どうして今グッジョブってやったんだよ! 嬉しそうにすんな! 「撮りまーす。3、2、1。はい、続けて撮っていきますねー!」  絡み撮影って距離が近いから、変に気まずいな。相手が妹だと更に気まずい。  小焼は推しと戯れてんのかな。カメラのチェックが入っている間に、向こうの様子をうかがう。  ちっちゃいのに囲まれて撮影してるや。ダウナーちゃんがすっごい体勢で撮影してる。床にめりこみたいとか言ってる声が聞こえる。そこまで下から撮影するようなものなのか……。  双子魔女のシルキーハスキーの衣装はけっこうミニスカだが、下にはカボチャパンツをはいているので、見えても問題ないはずだ。あと、そのパンツがまた可愛いので、見せるものだと思う。スカートはおまけでパンツがメインなんだっけ……、衣装の構造はよくわかんねぇや。  おれが考えている間にも撮影は進んで行く。ふゆが次に指定したポーズをとる。これもけっこうきびしいとこあんぞ。 「お兄ちゃんって思ったよりも体軟らかいんだね?」 「おう。意外と軟らかいぞ。いつもあいつにねじまげられてっからかな」 「あーなるほどー」  あひるさん座りだっけ? お姉さん座りだっけ? 女の子にしかできないって言われている座り方もおれはできる。骨盤の位置が変わっちまったのかな……。小焼によくめちゃくちゃされるし。  撮影はまだまだ続く。早くベスチカの撮影してぇなぁ。

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