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第29話

 目の前で推しがとんでもないポーズをしながらカメラを構えている。ふゆがやっているのを見たことはあるが、推しがやっていると……奇妙なものだな。 「メイちゃん。そろそろ交代やと思うの」 「本当なのー! レイちゃんありがとうなの!」  ちっちゃい推しがわちゃわちゃ話し合っている。  私の隣には豊満な胸の女がいた。夏樹の元カノの姉だったはずだ。 「あっちはあっちで兄妹で面白い構図で撮影してんだね。良いねぇ。最高のシンチカだね。萌えるよ!」 「貴女って、ベスチカが好きとか言ってませんでしたっけ?」 「そうさね。ベスチカは良いよ! 昔馴染みなだけあって、ぞんざいにチカを担ぎ上げるベースだけど、優しさってのが滲み出てて、いやぁ、どれが公式で二次創作か記憶があやふやになるくらいさ。公式が最大手なんだよね」  早口で語られたので、それだけ好きなんだと思う。私には理解できないが、好きなものは好きなんだから、好きなんだろう。  はるの話を聞いている間に、メイレイの二人と夏樹とふゆの二人が交代していた。 「コウちゃんお待たせ!」 「何がお待たせなんですか?」 「その様子だと、推しがいたから平気そうだな。自撮りできたか?」 「いえ……、メイはずっと床にめり込む勢いだったので」  それを聞いたふゆと夏樹は笑っていた。はるも笑っていた。  私は何かおかしなことを言ったか? そのまま言っただけだが。 「せっかくだし、あたいのカメラでもベスチカ撮影させてくんなよ」 「あたしもベスチカ撮りたーい!」 「だってさ、コウ」 「何したら良いんですか?」  ベスチカの撮影をしたいと言われても、私はこういった撮影会というものがよくわからない。夏樹をじーっと見て次の言葉を待ってみる。  夏樹は両腕を広げて「抱っこしてくれ」と言ったので、抱え上げてみた。 「あー! 尊い! 可愛い! ありがとうございます!」 「ありがとうございます!」 「感謝されてますけど……」 「たぶん、後でもっと激しい絡み撮影させられると思うぞ」  夏樹は嬉しそうな声を出しているが、それはそれでどうなんだろうか……。  目の前では女子二人が「ありがとうございます!」と言いながらカメラを構えているし……どういう状況だかよくわからない。  向こうでは推しがポーズを決めていた。……目の保養に良い。可愛いな。むちむちしていて、ふかふかしていそうだ。腹が空いてきた。 「コウ。おろしてくれ」 「はい」 「ベスチカ尊いー! 最高ー! あたし、シンチカも好きなんだけど、ベスチカのほうがもっと好きなんだよねぇ。ああ、もう駄目。完コス過ぎる。本人じゃん」 「わかる、わかるよ。あたいも、これだけ完璧なベースいないと思う」 「おれ、ダウナーちゃん撮りたいんだけど」 「あたいかい? 良いよ。ぞんぶんに撮りな!」  胸がぷるんっと揺れる。夏樹は巨乳好きなので、ダウナーの衣装は性癖だと思う。あれだけ胸元を強調した巨乳キャラはいないはずだ。  夏樹はカメラを持っていないので、スマホで撮影をしている。胸をズームして撮っていないか気になったので後ろから見てみたが、きちんと丁寧に撮影している様子だった。 「お兄ちゃん、おっぱいばっか撮影してないよね?」 「してたら殴るからね!」 「してたら浮気ですよ」 「してないしてない!」  してないとわかっているが声をかけると首を全力で横に振っていて面白かった。 「そういえばさ、あんたらって本当にカップルなのかい? ガッコで騒がれてたろ?」 「そうだぞ」 「そんじゃあ、ドギツイ絡み撮影できるってわけだね?」 「おいおい……、高校生もいるんだから、過激なのは駄目だぞ」 「ほっぺにチュウで良いよ!」 「へ? ああ、そんぐらいならすぐできるけど、おれがしたほうが良いのか?」 「チカちゃんからでお願いするよ!」 「あいあい。コウ、少し屈んでくれ。いや、引っ張ったほうが良いか?」 「はい」 「よっ、と」  腕を軽く引かれ、屈んだところで、頬に唇を落とされる。  なんだか気恥ずかしくなるな。これよりも先の行為をしているというのに、人前だからか?  はるとふゆは拝みながら連写しているようだった。少し怖い。

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